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四季の廻り。季節の訪れ。 あなたは何を待ちわびるだろう。 花を見る。顔を上げて桜の木を見つめるのも良いだろう。彼の花は咲くのも散るのも美しい。 蒲公英の黄色を見下ろすのも良いだろう。彼の花は白い綿毛へと姿を変え、遠くへ旅立っていく。 長く垂れる藤棚を見たことがあるだろうか。彼の花は咲いた年の数だけ伸び続ける。 春という季節は花を見る季節だ。咲いた花と出会い、散っていく花に別れを告げる。そんな季節だ。 夏も秋も冬だって、花を見る季節だ。だが、春の花は春にしか、夏の花は夏にしか出会えない。秋も冬も同じだ。 あなたは覚えているだろうか。散る間際の花がどんな顔をしていたのか。別れを告げる花が何を残していったのか。 散った花は戻ってこない。彼らはわずかな時間にしか咲くことはできないのだ。だからこそ花を見よ。今しか見ることのできない彼らを記憶に焼き付けよ。 桜の下で花見をする。賑やかなものだろう。 花を見ながら笑い合う。咲いた花を見ながら語り合う。貴重な時間だ。有意義な時間だ。花はやがて散っていくのだから。 花が散るように、隣にいる人も散っていくだろう。もちろんそれは自分の方かもしれない。 この花見の時間は永遠ではないのである。 忘れるな。花はいつか散るものだ。だからこそ目に焼き付けよ。その花を忘れぬように、目の前の瞬間を刻み込め。 雨が降り、止んだ。あなたは橋の上で誰かを待っている。 少しだけ流れが速くなった水が、橋の下を流れていく。 上流では桜が咲いていたのだろう。花びらが幾度も幾度もあなたの足下を潜り抜け、去っていった。 あなたは待っている。花が流れてくるのを。待ち人がやって来るのを。 数えきれぬ花びらが通り過ぎていった頃にあなたは思い出す。来年、また一緒に花見をしようという約束を。 流れていく水に乗って、小さな花びらがいくつもいくつも通り過ぎていった。あなたはそれをじっと見ている。 桜はもう散ってしまったのに、あなたは流れてくるそれを目でおった。まだ待っているのか。まだ待っているのだ。 あなたはただ花を待ち続けている。 花見の盛りを過ぎた頃に、それはやって来た。散り終わった桜はもう流れてこない。あなたは花だったものを見ている。 ゆっくりと流れていくそれを、あなたはただ見つめていた。あなたは何も言わない。もちろん、花だったものも口を開かない。 頭の中で花が言う。また一緒に花見をしようと。 花見の季節は終わっていた。 最期に、花だったものが去っていく。時の流れに揺られながら、あなたに思い出という形に残らないものを遺しながら去っていく。 あなたはそれを、まだ見ている。 待ち人であったはずの誰かが、空虚な目であなたを見た。 花は散った。もう、散ってしまった。 あなただってわかっているだろう。 花を見る時間は一瞬のことなのである。 あなたはまだ橋の上で誰かを待っている。 形の変わってしまった何かが流れてくるのを、まだ待っている。 まだ待っている。 まだ待っている。 まだ待っている。 流れてきた花を、あなたは見た。 流れてきた花も、あなたを見た。 散っていく花を、咲いている花は見送った。 今度はあなたの番だ。 あなたはまだ散らないのか。それならあなたは花ではない。あなたはただの造花だったのだ。 そう言って、何かはあなたに鋏を向けた。 あなたは待っていた。 あなたは誰を待っていた?
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