7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「子供の頃に憧れていたけど、一度も買ってもらえなかったんでしょう」
男はふわりと私の手の上にカップをのせると、ビールサーバーから伸びているホースをぐいっと引っ張り出した。
手の中のカップになみなみとビールが注がれていく。
私は思わずカップの中身と男の顔を交互に見た。
「……これって……本当に普通のビールですか」
「いいえ、言の葉ビールです」
言の葉ビール。
一度も聞いたことのない銘柄だ。
男はホースを仕舞いながら淡々とした口調で続けた。
「これを飲むと、桜の木を辿って亡きひとが戻ってきます」
私はぐいっと半身をそらしながら、眉を顰めた。
最初のコメントを投稿しよう!