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「何も……ない?」
「ああ。まったく問題ない。健康体だね」
未だに腫れが治まらないカゲの頬を気にしながら、北白河が言った。
数日前、極秘でカゲの健康診断が行われたのだ。
無論、「近いから」と言うのは恥ずかしいので、自分も内緒で健康診断をしてほしいとだけ伝えた。
絶対にどこか引っかかると踏んでいたのだが……。
何も問題がないのでは治療することもできない。
「何か、心配事でもあるのかい?」
北白河がカゲと対面になるように身体の向きを変えた。
しっかり話を聞き取ろうとする姿勢は医者の鑑と言っていい。
そしてイケメンだ。
「い、いや。何でもねえ」
頻尿だから、などと言えるワケがなかった。
西の空に白い月を見ながら歩く。
空の色は、彼の心持ちを現すかのように不穏であった。
(結局、俺は死ぬまで激チカなのか)
ならば、この身体の特性を活かして泥棒稼業に邁進してやるか。
居候先での遺産相続が不可能となった今、せめて他のお宝はゲットしなければ。
彼は悲壮な覚悟をもって、明日からも胡桃沢家に仕えるのである──。
そしてまた、めくるめく騒動に身を投じる羽目になるのだが。
それはまた、別の機会に。
◇お医者さま編◇完
次回は🌹お花屋さん編🌹
お楽しみに♡
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