いなくならないで

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 北白河が、クリニックのガラス扉の前に立っていた。  「あ……ごめんなさい。こんなところで騒いで……」  見られた。  頬がカッと熱くなる。  ヒカリは慌てて涙を拭った。  「どうした?」  カゲが北白河へ問う。  「うん。健康診断をおすすめしようと思ってね。おじいちゃんがいいと言えばだけど」  「健康診断?」  北白河は頷いて歩を進めた。  「おじいちゃんは毎年人間ドッグを受けているけど、今年はまだ先だね。でも、昨日のようなことがあってヒカリちゃんが心配するのもよく分かる。うちの健康診断でも、おじいちゃんの体に不調がないかチェックすることはできるから……ねえ、ヒカリちゃん」  北白河は中腰になり、言い聞かせるようにヒカリの顔を覗き込む。  「人は歳をとる。それは避けることができない。でもね、その前にやれることはたくさんあるんだよ」  「誠先生……」  ヒカリは、目を潤ませて北白河を見つめ返した。  「ありがとう! 帰ったら、おじいちゃんに訊いてみます」  「よし!」  大きな手でヒカリの頭を撫でると、北白河はクリニックに戻って行った。  夕方の診療が始まるのだ。  春平の健康診断には付き添うつもりだった。  また、先生に会えるから。  今さっき、撫でられた頭にそっと手を添える。  カッコいい誠先生。  冬子と一緒になって、きゃあきゃあ言えればそれで楽しかった。  姫華に抜け駆けされなければ、それで良かった。  でも。  もう誤魔化せないだろうと、ヒカリは自覚した。  誠先生のことが大好き。  朱と金に染まった空に向かって。  止まらない思いは、高く高く昇ってゆくのだった。
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