美亜ちゃん

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美亜ちゃん

 ヒカリとカゲは、無言で歩いていた。  クリニックの前で言い合ってしまったことが尾を引いているのだ。  ヒカリは祖父への心配が完全に消えた訳ではないし、新入りの護衛(しかも泥棒)に思いがけず胸の内をさらけ出してしまった気まずさもあり。  カゲはカゲで、能天気に見える令嬢があんな悲壮な思いを抱いていたことなど露知らず、けっこう無神経なこと言っちまったなーという気まずさがある。  果たして。  この微妙な空気を打ち破ったのは、一人の幼い少女であった。  「おい、チビ。何してんだ?」  クリニック近くの、こんもりと緑に囲まれた公園。  細い道を挟んだところにある。  入り口の石段に、小学校低学年くらいの、おかっぱの女の子が腰掛けていた。  カゲが声をかけると、女の子はブーッと不機嫌な顔を見せる。    「あら。あなた、昨日もここで遊んでたわね?」  ヒカリは昨日のことを思い出した。  みんなが自転車に乗って帰っていく中、この子だけ遊び足らないような様子で佇んでいた──。  「そろそろ帰らないと、パパやママが心配するんじゃない?」  ヒカリたちは夕方診療が始まってからクリニックを出たので、もうとっくに十七時を過ぎている。  小さな子が一人で外にいる時間ではない。  「……つまんない」  小さな呟きが地面に落ちる。  ヒカリとカゲは、顔を見合わせた。  「つまんないつまんない! つまんないよぉーっ!」  女の子は、両脚をバタつかせて叫んだ。
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