美亜ちゃん

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 「落ち着けって」  「一体どうしたの?」  二人が口々に声をかけると、女の子はポツリポツリと話し出した。  「パパ、ずーっと遅くにしか帰らないもん」  「そうなの」  「お約束、何回も破ったんだよ。美亜(みあ)にはお約束守りましょうって言うクセに」  美亜ちゃんはヒートアップしていく。  「昨日だって、早く帰って遊ぶって言ったのに!」  「そっか。美亜ちゃんのパパ、お仕事が忙しいのかな?」  「ママもそうやって言う。パパは忙しいからしょーがないって。パパの味方するの」  どう答えたものか、ヒカリは困った。  「……キライ。パパもママも、キライ!」  言ってしまってから言葉の重さに気づいたか。  美亜ちゃんの顔が苦しげに歪んだ。  「そうかな。美亜ちゃん、パパと一緒にいたいから怒ってるんでしょ? それって、大好きじゃん」  ヒカリに覗き込まれると、美亜ちゃんは必死で首を縦に振る。  拍子に大きな涙の粒が零れ落ちた。  「お姉さんはね。パパとママ、いないんだ」  美亜ちゃんがえっと目を見開く。  「お星様になっちゃった。だから、最後のお約束はそのまま」  「……」  「でもね。お姉さん、今でもパパとママのこと大好きだよ」  ずーっとね。  そう言って天空の、朱と藍の境目に光る星を探す。  「ぅぎ!」  感動的な夕暮れに奇声が放たれた。  「ちょっと、カゲ! 何で今ふざけるのよ!?」  「ハぅぉっ……ふ、ふざけてねえ!」  カゲは綱渡りをするような格好で水平を保つ。  (何故ここで尿意が!)  ふざけているようにしか見えないが、本人は大真面目である。  「アハハッ」  美亜ちゃんが笑った。  出会ってから初めての、子供らしい笑顔だった。  喜ばしいことだが、何故ここで尿意が襲ったか謎が残る。  尿意イコール危機だからだ。  「美亜ちゃーん」  遠くから誰か呼んでいる。  「ママだ」  美亜ちゃんの表情(かお)が、安心したようにふにゃっとなる。  ママに走り寄っていく美亜ちゃんに、ヒカリは幼い日の自分の姿を重ねていた。
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