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絶対的事実
胡桃沢邸。
万能執事・橋倉巌の居室である。
件のメロドラマは、不倫男の妻が違和感を覚え始めているところであった。
一度は上手く誤魔化せたと思われたが、意外なところからボロ出て──。
という展開で、視聴者をハラハラさせている。
橋倉も心配顔でテレビを消すと、いつものように茶を淹れるべく立ち上がった。
「うっわぁ。奥さん鋭いねー」
「ゴフッ! またですか、お嬢様!」
ヒカリとカゲは、ごくたまに橋倉の部屋でドラマを視聴するのである。
平日の昼下がり、20分ほどの放送枠でダラダラと続いている。何度か見逃したところで、話の筋が分からなくなるという心配はない。
「バレるに決まってんだろうが」
カゲは偉そうにラグに寝そべった。
「“しばらく会わない”とか言った直後に会いに行ってやがる。意思薄弱か? 欲の塊か?」
「だって、彼女は独り身で病気なのよ? 行っちゃうでしょ」
「風邪だろ」
昼下がりのドラマは、こんな下世話な感想を言い合えるくらいが丁度いい。
「泥棒が! 当たり前のように寛ぐな!」
橋倉が雷を落とすも、カゲは薄く笑いながら耳をほじっている。
使用人たちを束ねる役割も担う橋倉にとっては頭が痛むところだ。
しかし、楽しそうな令嬢を目の前にすると、「こういうのもアリなのか」と揺らいだりもする。
「さあさ。そろそろ旦那様がお出かけになる時間です。お嬢様も参られるのでしょう?」
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