絶対的事実

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 ♡  今日は、春平が健康診断を受ける日である。  ヒカリの提案を快く受けた形だ。  自分の身体を気遣ってくれてのことだと分かると、春平は目を細めて喜んだ。  今日の午後は休診で、健康診断だけが行われる。  ヒカリたちがクリニックに着くと、同じく健康診断を受ける人たちがまばらにソファで待機していた。  「どうも、胡桃沢様。ヒカリちゃんも来てくれたんだね」  北白河が待合室の方に出てきた。  「やあ、若先生。今日はよろしく頼みますぞ」  「こ、こんにちは」  「この前は、ご馳走さま」  彼はヒカリに耳打ちすると、笑顔で診察室に戻っていく。  全身が痺れたようになった。  囁かれた左の耳に熱が集中しているのが分かる。  健康診断が始まれば、北白河は問診などで出てこない。  それでもよかった。  ひと目会うだけのために、ここへ来たのだから。  (はうぅ)  一方のカゲである。  尿意を回避したくて、今日は外で待機している。  しかし、そんな小さな抵抗は何の意味もなさなかった。  尿意は、容赦なく訪れたのである。  (くっそ、なんて威力だ! どんな危険が潜んでやがる……)  正面のガラス扉が開いた。  「ねえ、カゲ。ヒマぁ」  春平は検査中だし、北白河はいない。  思った以上に暇を持て余すヒカリお嬢様である。  「帰るか?」  「ううん、おじいちゃん待っとく」  「まあ、どっかで暇つぶすか」  カゲとしては、尿意を呼ぶ危険地帯から離れられれば問題ない。  クリニック前の自販機でサイダーを買い、二人は歩き出した。  「あ! この前のお姉ちゃんたち!」  道を挟んだ公園から元気な声がかかった。  こんもりした緑を背負った公園だ。  「美亜ちゃん! また会ったわね!」  ヒカリが手を振り返す。  「ぎぁっ……!」  カゲが(うめ)いた。  
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