絶対的事実

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 細い道を挟んだ、あの公園。  そこへ行ったら、俺の膀胱は確実にヤバい。いや、既にヤバい。  原因は美亜ちゃんか?  カゲの瞼の裏で、危険信号が高速で点滅する。  「お姉ちゃんたちも一緒にあそぼ!」  「うん! 今行く!」  嗚呼。  さらなる危険地帯へ。  公園には、美亜ちゃんの他にもたくさん子どもがいた。  ヒカリは子どもと遊ぶのが嫌いではない。  最高の暇つぶしだ。  「ひゅぐっ!」  カゲが素っ頓狂な声を上げて硬直すると、子どもたちはゲラゲラ笑った。  カゲの事情知らないヒカリは、  (ちゃんと子どもを喜ばせてる……意外と面倒見が良いのね。言動が気持ち悪いけど)  と思っている。  誰かが言った。  「ドロケイやろうぜ!」  お嬢様なヒカリはドロケイが何なのか分からなかったが、美亜ちゃんに教えてもらった。  「よっしゃ、おまえら。俺様に追いつけるものなら追いついてみやがれ!」  尿意を紛らすため、カゲは走った。  まさにコソ泥の走りである。  これまで、トイレを探して彷徨(さまよ)うことで警察から逃げ延びてきたのだ。  誰にも追いつけるはずがなかった。  「じゃあ、そろそろ時間だから。また遊びましょうね」  三十分後、ヒカリとカゲは公園を後にした。  ようやく危険な公園から離れられる。  しかし、これから向かう場所も安全ではない。  カゲは悲壮な思いを胸に、ヒカリに続いた。  クリニックに入る直前、ヒカリは左の耳にそっと触れる。  ──この前は、ご馳走さま。  さっきの感触が、ずっと残っていた。  耳をくすぐった空気の動きも、イントネーションも。    一方のカゲは、わざわざ壁と天井を伝ってトイレに向かう。  戻ってきて早々にトイレに直行すると、「近い人」と思われて恥ずかしいからだ。  「ふー……ぉ、ぉう」  今日も何とか無事だった──。  
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