絶対的事実

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   バレないようにトイレから出る。  ずっと、ここにいましたけど? みたいな顔で太い柱の陰に身を潜める。  そこでまた震えがきた。  (あぅ……マジでどーなってんだ、この病院は!)  その時。  自動の内扉が開いて、トコトコと小さな影が入ってきた。  「え? 美亜ちゃん?」  ヒカリが目を見開く。  カゲも驚いたが、柱の陰から様子を窺う。  しかし。  「あら、美亜ちゃん。久しぶりね」  「待ちきれずにパパを迎えにきたの?」  もっと意外だったのは、受付の女性やナースたちが、美亜ちゃんをごく自然に受け入れていることであった。  「パ……パ?」  ヒカリが小さく呟いた。  「うんっ!」  美亜ちゃんは無邪気にナースたちに答えると、ついと手を上げて一直線に駆け出した。  「パパぁ!」  美亜ちゃんを抱き上げたのは、白衣の腕。  「ごめんごめん。少し遅くなったな」  「ずっ待ってたんだよぉ」  「もうすぐ終わるから」  可愛くてたまらないという様子で美亜ちゃんの頭を撫でるのは、北白河であった。  (そういうことかよ! 道理で……)  カゲは、たまらず柱に手をついて内股になった。  度重なる尿意は、これを伝えるためだったのだ。  既婚者──。  北白河医師は、子持ちの既婚者だったのである。    
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