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冬子、心配する
「まあ。誠先生のお子さんだったんですか?」
ヒカリはわざと大袈裟な声を上げてみせた。
「お姉ちゃんっ」
北白河の腕の中で振り向いた美亜ちゃんは、思いがけない再会に喜びを爆発させる。
ヒカリたちと美亜ちゃんが会うのは今日が二度目で、しかもさっきまで一緒に遊んでいたのだと分かると、クリニックの待合室は温かな笑いに包まれた。
「美亜ちゃんのパパね。私のおじいちゃんの健康診断してくれたのよ。ありがとね」
「こちらこそ、美亜が何度も世話になって」
ヒカリが美亜ちゃんに笑いかけると、北白河はしみじみとした様子で言った。
「小さかったヒカリちゃんに、自分の娘が遊んでもらえる日が来るとは……本当に、素敵なお嬢さんになられましたね」
話を振られた春平は、目尻を下げて何度も頷く。
(私、なんで大人みたいな会話してるんだろう)
ここで自分が狼狽したら、おかしいんだ。
美亜ちゃん、誠先生。
彼らを自然に受け入れているナースたち。
自分がいま崩れたら、温かな雰囲気は壊れてしまうだろう。
でもヒカリは、不思議と苦しくはなかった。
言葉はスラスラと出てくるし、笑顔を見せることも容易だった。
作り笑顔ではなく。
ヒカリ本人がビックリしてしまうくらい、自然に笑うことができるのだった。
振り返れば、思い当たることはたくさんあった。
誠先生が、これまで自分に対して見せてきた態度。
その数々は、大人から年少の者に向けられる態度であった。
妹とか、娘とか。
(なあんだ、そうだったのか)
いや、本当は分かっていたのかも。
見て見ぬフリをしていただけ……。
呆気ない。
でも、思ったより傷は浅いかもしれない。
ただ、ヒカリは酷く疲れていた。
カゲは、もう一度トイレに引き返した。
元から柱の陰に隠れていたし、みんな話に夢中だったから、誰にも気づかれることはなかった──。
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