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件のメロドラマは、ついに妻が不倫の証拠を押さえるに至っていた。
そんなことは知る由もない不倫男は、同僚(チャラい)とともに酒を飲みに行く。
『結婚なんて紙切れ一枚提出したかどうかだろ? おまえたちが、もっと強い絆で結ばれてることを俺は知ってる。諦めるなよ。俺もできる限り力になるから──』
同僚(チャラい)は、そう言って彼を励ますのだった。
このドラマは、何故か不倫カップルが応援されている。
『紙切れ一枚、か……』
同僚(チャラい)の言葉を反芻しつつ男が帰宅すると、苦しげに顔を歪ませた妻が待っている。
その後は怒り狂う妻の独壇場であった。
テーブルに並んだ料理を投げ、皿を割る。男を罵る、子供を盾にとって恐喝する、泣き叫ぶなど不安定ぶりを発揮。
最終的には包丁を持ち出した。
『離婚はしない! あなたがあの女を選ぶなら死んでやるわ!』
包丁を自分の首に当てる妻。
血走った目の下に踊る「つづく」のテロップ……。
彼女の怪演は視聴者を震撼させた。
「……なに、このドラマ?」
冬子の指からポロリとスナック菓子が落ちた。
彼女は、ヒカリの部屋に遊びに来ている。
ジュースとおやつで女子会的なことをしていたのだが、BGM代わりにつけていたテレビで例のドラマが始まってしまったのである。
昼下がりに相応しい薄さのドラマ。
だと思うのだが、ヒカリの部屋の大型テレビで観るといろんな意味で圧巻で、つい見入ってしまった。
「ええと、誠先生の話だっけ」
「ん。結婚してるの知らなかったってだけの話」
「そーなんだ」
「うん。先生、指輪してなかったし」
「まあ、しない人はしないからね。誠先生、医療従事者だし」
その後、ヒカリは美亜ちゃんの話をしたりした。
話をいきなり変えたような感じだった。
それに、今日はどうもヒカリと目が合わないような気がする。
また逸らされた。
そのときの微妙な表情を、冬子は見逃さなかった。
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