冬子、心配する

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 「ヒカリちゃん?」  冬子が呼びかけると、ヒカリは慌てて顔を上げた。  「何よ、ショックだったわけー?」  わざと軽い調子で話しかけ、ジュースのおかわりを()いでやる。  「そんなんじゃないって! そもそも誠先生はずっと歳上だし」  「カッコいいもんねー、誠先生」  姪っ子の相手をしながら、「あ、これは本気だったな」と確信した。  もしくは現在進行形か──。  冬子だって、まったくショックじゃないと言えば嘘になる。  ただし、彼女にとって北白河は単なる「推し」でしかない。  (私も騒ぎすぎたかな。ヒカリちゃんを煽っちゃったかも)  少々反省する冬子であった。  直後、さっきのドラマの内容を思い出して薄ら寒くなる。  (まさか、ね)  ドラマに影響されて、可愛い姪っ子が不倫に走ったらどうしよう。  まさか、北白河が応じるとは思えないけれど。  「うーん、ヒカリちゃんもお酒が飲めればいろいろ話せるのになー」  冬子が思わず声に出すと、ヒカリはポカンとした顔で首を傾げた。  ♡  「……このドラマ、本当に人気あんのか?」  「……途中で投げ出すのは性に合わん。最後まで見届ける」  橋倉、謎の意地っ張り発言である。  ここは彼の部屋だ。  こちらでも例のドラマは視聴されていた。  「ところで泥棒。何故ここで寛いでいる?」  「女どもがうるせぇんだよ。自分の部屋はカビくせぇしな」  カゲに割り当てられた部屋は、古本だらけの書庫なのだ。  利点といえば、トイレへのアクセスの良さくらいである。  「お嬢様方のことをそのように言うでない。ほれ、シッシ」  ドラマの内容に衝撃を受けているのか、橋倉にいつもの覇気はない。  本格的な雷が落ちる前に、カゲは執事の部屋から退散した。    「護衛くん」  廊下で声をかけられた。  冬子である。  「今日は踊らないんだね」  「フン」  カゲとて、そういつも尿意と闘っているわけではない。  
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