泥棒、立ち聞きする

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泥棒、立ち聞きする

 (物騒かつ短絡的なお嬢さんだ)  誰もいなくなったテラスに出てきた人物が、ブルリと身体を震わせた。  カゲである。  物陰で会話はすべて聞いていた。  震えたのは、もちろん膀胱が騒ぐからである。  およそ、お嬢様の口から出る言葉とは思えなかった。  ましてや、ここは美しい蓮の庭だ。  水面には、白やピンクの蓮の花が凛と咲き誇っている。  花言葉は主に「純粋」・「清らかな心」・「信頼」といったもので、まさにこの蓮乃宮女学院の理念そのもの。  そんな場所で、まさか人の家庭を壊す計画が語られるとは──。  (うお、やべェ)  カゲはポケットに手を突っ込むと、トイレへ急いだ。  わざわざ職員・護衛用トイレまで移動しなければならないのが悲しい。  (あいつ、どうするつもりなのかな──)  ♡  胡桃沢邸の呼び鈴が鳴ったのは、それから三日後の夜であった。  モニターに映った人物を視認したとき、ヒカリは、複雑な思いを抱きながらも胸の高鳴りを抑えることができなかった。  「これはこれは若先生。ささ、奥へどうぞ」  橋倉が彼を迎え入れる。  「いえ、すぐにお(いとま)しますので」  「さようでございますか」  北白河は、玄関にいちばん近い応接室へ通された。  胡桃沢邸の中では待合などに使う簡易的な部屋だ。  「誠先生、こんばんは」  ヒカリが精一杯の笑顔で部屋に顔を出すと、北白河はいつも通りの微笑みで白い封筒を掲げてみせた。  彼は今夜、春平の健康診断の結果を持って訪ねてくれたのだ。  三日しか経っていないのに、長いこと会っていなかった気がする。  あの事実を知って以来、始めて向き合う誠先生。  あれから、美亜ちゃんとも遊んでいない。
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