泥棒、立ち聞きする

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 「素晴らしい結果です、同年代の平均と比べましても」  北白河が説明すると、春平は豪快に笑った。  「フォッフォ。若先生のお墨付きとあれば安心ですなぁ」  「僕も胡桃沢様を見習って、不摂生をどうにかしなければ」  北白河が頭を掻いて笑いを誘う。  「医者の不養生というやつですかな」  「お医者様は大変なお仕事ですもの。ご自愛ください」  応接室では歓談が続いている。  (おーおー。お嬢様ぶりやがって、気持ち悪りぃ)  飾り棚にピタリと吸い付くようにして、カゲが佇んでいた。  護衛の仕事をしているのではない。  金目のものを物色中、ここへ北白河が通されてしまったのだ。  部屋は広く、ソファから飾り棚までは距離がある。  気配の消し方も心得ているので、見つかる心配はないだろう。  多少の尿意をいなしながら、カゲはそのように計算した。  それにしても、こうして見るヒカリは良家の令嬢そのものである(事実、そうなのだが)。  しかし、彼は何となく、あんな風に振る舞うヒカリを見るのが居心地悪いというか、面白くないのであった。  長居はしないとの予告通り、北白河は早めに歓談を切り上げた。  「先生、本当にお世話になりました」  「ああ。困ったことがあれば、いつでも相談してね」  その優しさに、不安と期待が入り混じる。   今度、いつ会えるだろう。  会ったとして、その時どんな気持ちになるだろう。  どんな顔で話をしたらいいんだろう。  溢れそうな疑問を抱えながら、ヒカリは北白河の背中を見送った。
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