泥棒、立ち聞きする

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 今日はまだ早いから、美亜ちゃんと晩ご飯が食べられるかな。  美亜ちゃん、喜ぶだろうな。  そう思うと、ヒカリの胸は刃物で切られたような痛みが走るのだった。  自室で一人になるよりも、最近は祖父や使用人たちと過ごす方が気が紛れる。  実際、人に囲まれている時のヒカリはよく笑った。  心から笑えていると思う。でも作っている自覚もあるような気がする。  それは、プールの底に落ちた物を拾えないまま身体が浮き上がってしまう感じによく似ていた。  自分と自分が乖離した状態だ。  このことは、春平たちには知られないよう努力した。  彼女はこの種の隠し事をした経験があまりなく、それもまた後ろめたいのだが。  なぜ隠そうとするのか、本人にも分からないのだった。  どうして好きになってしまったんだろう。  どうして出会ったのが「今」なんだろう。  真先生が結婚する前じゃなくて。  (いいえ。そんなことは関係ないんだわ)  久方ぶりに北白河と会ったこの夜、ヒカリはある結論に達した。  相手の「今」がどうであろうと、好きなものは好きなのだ。  関係ない。  好きな理由も、結婚も。  これは運命のようなものなのだ。  (私は誠先生が好き)  (くだん)のメロドラマに影響を受けているのか定かでないが、ヒカリはとても思い詰めていた──。
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