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箱入り令嬢は絶不調
件のメロドラマは、不倫男の相手、即ちヒロイン(?)に言い寄る当て馬が活躍中であった。
眉目秀麗、しかもヒロイン(?)たちが勤める大会社の御曹司だ。
もちろん不倫男より若く、独身である。
“そっちにしとけよ”との視聴者の思いも虚しく、ヒロイン(?)は言うのだった。
『私、自分に嘘はつけない……!』
と──。
諦めずに頑張っていた御曹司も、ヒロイン(?)の真っ直ぐな瞳の前に敗北。
ロールス・ロイスに乗って去って行った。
次回はついに、ヒロイン(?)と不倫男の妻が対峙する。
「バカだろ、この女」
「……」
例によって、橋倉の居室である。
カゲが呟き、橋倉は黙って茶を淹れに立つ。
大半の視聴者が、何を見せられているのかと思い始めていた。
しかし、ここまで来たからには最後まで見届ける姿勢の橋倉である。
カゲは、ドラマにツッコミを入れることができればそれでいい。
「うーん。勿体無い話ねぇ」
カゲの隣で、ヒカリが言った。
体育座りで立てた膝に、顎を半分埋めている。
「御曹司の彼も素敵なのにぃー」
ヒカリが二言目を継ぐと、カゲは隣を盗み見た。
(不倫カップル推しじゃなかったのか?)
カゲがドラマにケチをつける度に反論するのがいつもの彼女だ。
声に張りがないのもどうも気にかかった。
首を巡らせれば、橋倉は安心したような顔で茶を淹れている。
──パパたちはヒカリちゃんを溺愛してるけど、どっか抜けてる。
姪のことを心配していた冬子の顔がチラつくと同時に、ブルリと震えが来た。
膀胱が騒いだのだ。
(良からぬ状況だな……)
カゲがトイレを欲するとき、危機は確実に傍にある。
ハズレはない。
ヒカリは、周りに隠しながらもドラマのヒロイン(?)に共感しまくっていたのであった。
好きなものは好きなのだ。
自分に嘘はつけないのだと。
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