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北白河クリニックに集う人々
北白河クリニックの待合室は、人でごった返していた。主に女性で。
「クリニック」だからといって、街中の普通の病院を思い浮かべてもらっては困る。こちらはセレブ専用のクリニックだ。待合室はホテルのロビーのようで、巨大なフラワーベースにはピンク色の薔薇がたっぷりと活けられている。
何故こんなに女性が集まっているのか。
理由は、北白河の息子が跡を継いだからである。
北白河 誠。
彼はちょうど良い具合に彫りの深い、優しげかつ爽やかかつ大人な雰囲気のイケメンなのだ。おまけに親身になって話を聞いてくれるとあって、北白河の噂はまたたく間に広まった。
それで、クリニックに女性が大挙しているというワケである。
「けっ。医者のクセに気取りやがって」
「何よ、カゲ。僻んでるの?」
護衛として、通院にも付き添っているカゲである。
彼はトイレが心配なのだ。
人混み、ザワザワとした喧騒、薔薇の香り、床の白さ。全てが膀胱を刺激する。
「胡桃沢様〜。中待合室にお入りくださいませ」
ナースに呼ばれた。
北白河クリニックのナースウェアは、ベージュ基調でサイドに赤いラインが入っている。スタイリッシュなパンツスタイルだが、柔らかな色調は来院者に安心感を与えていた。
(カッコいいなぁ)
同じナースウェアを身につけ、北白河と仕事をする自分の姿を思い浮かべる。毎日、憧れの先生の傍にいられたらどんなに素敵だろう。
ナースになるためにはそれなりの勉強が必要だ。決して楽な道ではないのだが、そこまで想像が及ばない、箱入りなヒカリお嬢様である。
ナースに軽く会釈をして中待合に入ると、聞き慣れた声に迎えられた。
「はぁ? 何でヒカリがここにいるんですの?」
「げっ、姫華」
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