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蓮乃宮女学院高等部。
すれ違いざまに、冷泉姫華がヒカリの肩にぶつかって行った。
「いいのよ、放っておきなさい」
ヒカリは、いきり立つ鈴木さんを押し留めた。
姫華は髪をしっかりカールし、取り巻きを引き連れている。
沈んでいたのは、テラスで話したあの日だけだったようだ。
「しかし。あまりにも失礼が過ぎるのでは」
鈴木さんの言う通りであった。
姫華たちからの嫌がらせは日常茶飯事だが、ここ数日は度を越している。
姫華は怒っているのだ。
誠先生の家庭を壊すために手を組むかどうか。
ヒカリが明確な返事をしないから。
──欲しいものを手に入れるのに、何を躊躇う必要があって?
どうしてそこまでガツガツ行けるのか。
自分はショックを受けて以来、ほとんど何も考えられない。
ヒカリは彼女の切り替えの速さに舌を巻いた。
「おい、大丈夫かよ」
カゲが口を開いた。
「ええ」と曖昧に応じる。
カゲを直視できなかった。
自分の浅ましさを見透かされている気がした。
──あなた、そのつもりで私に声をかけたのじゃないの?
人の家庭を壊す。
姫華なら、それくらいのことは言いそうだった。
向こうに誘わせている時点で、自分は卑怯なのだ。
他にどんなつもりがあったのか。
慰め合いたかった?
寄りかかりたかった?
姫華なんかに?
自信満々な後ろ姿を盗み見る。
彼女のことが大っキライだ。
派手に着飾って、周りを取り巻きで固めているところも。
欲望に忠実で手段を選ばないところも。
でもヒカリは、今の自分に彼女を軽蔑する資格があるとも思えないのだった。
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