箱入り令嬢は絶不調

3/3

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 ♡  蓮乃宮女学院高等部。  すれ違いざまに、冷泉姫華がヒカリの肩にぶつかって行った。  「いいのよ、放っておきなさい」  ヒカリは、いきり立つ鈴木さんを押し留めた。  姫華は髪をしっかりカールし、取り巻きを引き連れている。  沈んでいたのは、テラスで話したあの日だけだったようだ。  「しかし。あまりにも失礼が過ぎるのでは」  鈴木さんの言う通りであった。  姫華たちからの嫌がらせは日常茶飯事だが、ここ数日は度を越している。  姫華は怒っているのだ。  誠先生の家庭を壊すために手を組むかどうか。  ヒカリが明確な返事をしないから。  ──欲しいものを手に入れるのに、何を躊躇(ためら)う必要があって?  どうしてそこまでガツガツ行けるのか。  自分はショックを受けて以来、ほとんど何も考えられない。  ヒカリは彼女の切り替えの速さに舌を巻いた。  「おい、大丈夫かよ」  カゲが口を開いた。  「ええ」と曖昧に応じる。  カゲを直視できなかった。  自分の浅ましさを見透かされている気がした。  ──あなた、そのつもりで私に声をかけたのじゃないの?  人の家庭を壊す。  姫華なら、それくらいのことは言いそうだった。  向こうに誘わせている時点で、自分は卑怯なのだ。  他にどんなつもりがあったのか。  慰め合いたかった?  寄りかかりたかった?  姫華なんかに?  自信満々な後ろ姿を盗み見る。  彼女のことが大っキライだ。  派手に着飾って、周りを取り巻きで固めているところも。  欲望に忠実で手段を選ばないところも。  でもヒカリは、今の自分に彼女を軽蔑する資格があるとも思えないのだった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加