共闘

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 その頃。胡桃沢邸では、ちょうど昼食の膳が下げられているところであった。  「旦那様。何かご心配事でも……?」  (あるじ)の食が進まないことを気にかけた橋倉が、遠慮がちに申し出る。  「うむ……」  春平は卓に肘をつくと、組んだ手を額に当てた。  「健康診断の書類を見直したのだが、どうも結果が思わしくないようなのじゃ」  「何と。しかし、若先生は」  「あのときはヒカリが傍にいた。気を遣ってくださったのかもしれん」  「すぐにでも問い合わせましょう」  「のう、橋倉」  「は」  「上手くいかんものじゃのう。いつまでも、ヒカリを見守るつもりでおったが」  「旦那様……」  「ハハ。そのうち、直接クリニックへ出向くとしよう」  春平は努めて明るい声を上げた。  眉間の悩ましげなシワは消え、いつもの柔和な彼がそこにいる。  「食後の茶をいただこうかな」  「かしこまりました」  そのように悠長な──。と言いそうになるところを、橋倉はぐっと堪えた。  主にも、気持ちの整理の付け方というものがあろう。  逸る気持ちを抑えながら茶筒を取り出す。  「よぉ。ここにいたか、ジジイども」  出し抜けに声をかけられ、驚いた橋倉は茶葉をぶちまけた。  「気配を消しながら現れるな! この馬鹿者が!」  「泥棒。貴様、ヒカリの護衛はどうした?」  高級茶葉の香りが漂う中、春平が立ち上がる。  ヒカリの前から姿を消したカゲは、何と屋敷に戻っていたのであった。  「気が乗らねー。鈴木さんがいりゃ問題ねえだろ」  カゲは、春平の斜向(はすむ)かいにどっかと腰を下ろした。  「訊きたいことがある」  「何じゃ」  「ガキの話だ」  春平が座り直すと、カゲは橋倉の方に首を巡らせる。  「てめぇ、いつだか“若先生なら心配ない”ようなことぬかしてたが、それは奴が既婚者だからか?」  橋倉が、茶葉を片付ける手を止めた。  
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