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泥棒の忠告と、じいちゃんの乱心
「それもある」
橋倉が答えると、カゲは呆れたようにため息をついた。
「まったく大丈夫じゃねえみてーだぞ」
「……そうなのか」
「いいのかよ」
「泥棒風情には何も見えておらんようだの」
春平がフォフォッと笑った。
橋倉が後を引き継ぐ。
「黙って見ておれ。いずれ分かる」
「いや、分かんねえって!」
カゲは、イラついた様子で立ち上がった。
「あいつの世界は、てめーらが思ってる以上に狭い。短絡的で幼な過ぎんだよ」
春平は眉をしかめ、彼の顔をギラリと見上げる。
「あのガキ、今が永遠に続くと思ってやがる。けど、どうしたってジジイどもは先に逝く。みんながずっと同じ場所いるなんて有り得ねえんだ」
俺だってな。
その一言を、カゲは飲み込んだ。
「本当に大事なら現実を教えてやれ。世の中、十八で成人だぞ」
「……かん」
静かな食堂に、誰のものとも分からない呟きが落とされる。
「逝かん!」
春平の声だった。
彼は苦しげに続けた。
「ワシは逝かん。ヒカリと約束したんじゃ」
「ふざけたこと言ってんなよ、ジジイ」
「やめんか、泥棒」
見かねた橋倉が制止に入る。
「話がズレておるだろう。お嬢様と若先生のことなら心配ない」
「ズレてねえ! ずっと夢見がちな世界に閉じ込めてるから暴走するんだ」
「夢見がちで何が悪い?」
橋倉が拳を震わせた。
「貴様は知らんだろう。あの日、この屋敷に訪れた絶望を。お嬢様の悲しみを」
食堂は、それきり沈黙した。
たっぷり二分は経った頃、春平がポツリと言った。
「では泥棒。貴様にくれてやる」
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