泥棒の忠告と、じいちゃんの乱心

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 カゲは、ポカンと口を開けた。  「今なんつった?」  「旦那様っ!」  「ヒカリをくれてやると言っとるのだ」  橋倉の制止を遮って、春平は続けた。  「本当にワシが死んだらな。孫は冥土に連れて行けんし」  「ほーぉ」  この俺が、あのガキと。  新しい視点だな。  カゲは、考えるように顎をさすった。  「それはその、この家の財産も一緒にってことか?」  「ふん。金は冥土に持って行けんからの」  「ほほう! そりゃそうだ!」  カゲが身を乗り出すと、橋倉が割って入ってくる。  「旦那様、しっかりなさいませ! 貴様はテーブルに乗るな!」  「……だってぇ」  橋倉が必死で宥めるも、グスンと鼻を啜る春平である。  孫のことになると“財界の鉄人”も形無しだ。  だからって、よりによって何で泥棒なんかにお嬢様を託そうということになるのか。ヤケクソが過ぎる。泥棒はテーブルの上であぐらかいてるし。  橋倉は頭を抱えたくなった。  「おい、貴様も真に受けるなよ。旦那様は今、正気ではないのだ。テーブルから降りろ」  しかし。  (何で今まで気づかなかったんだろうな。これで全財産ゲットじゃねえか! 相手が青臭いガキってところがキツいけどなー)  真に受けてた。  (でも面倒な護衛の仕事からは解放されるし。どーせ紙切れ一枚のことだしな!)  結婚は紙切れ一枚提出したかどうか。  例のドラマで、不倫男の同僚(チャラい)が言ってたやつである。  彼もしっかりドラマの影響を受けていた。  「で、正気じゃねえとはどういうこった?」  突然の質問。  橋倉は内心ヒヤリとした。  「泥棒には関係ない! テーブルから降りろ」  この男は、とぼけているようで妙に鋭い時がある。  泥棒だからなのか。  「ジジイもそろそろ身体にガタが来た。ってところかな」  「まだ分からん。テーブルから降りろ」  橋倉は、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。  そして最後に付け加える。  「他言無用だぞ」  “財界の鉄人”の健康不安説。  そんなものが巷に出回ったら、社会は大混乱だ。
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