泥棒の忠告と、じいちゃんの乱心

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 「でも、健康診断は問題ないって話じゃなかったのか?」  と、カゲ。  「うむ、しかし」  「ん? 待て。なぜ泥棒がそのことを知っている?」  橋倉が不審そうに言った。  「あ」  「あ、とは何だ」  あの時、カゲは応接室の飾り棚に張り付いて話を聞いていたのだった。  護衛ではなく、の方で。  「いやぁ、俺は何でも知ってるのさ」  「この馬鹿者が!」  理由を察した橋倉が雷を落とす。  「テーブルから降りろ! っていうか()ね!!」  「へいへい」  カゲは滑るように床に着地した。  「さっさと病院行けよー」  食堂を出る直前、そう言い残していった。  「……それもそうよな。早めにクリニック行くわ、ワシ」  泥棒に言われてその気になる春平である。  複雑だが、ひとまずは胸を撫で下ろす橋倉であった。  再び食堂のドアが開く。  「派手にやってたね」  「おお、冬子。大学院の方はいいのか」  末娘の姿を認めると、春平は目尻を下げた。  「今日は午前中でキリがついたの」  冬子が席につくと、橋倉は慌ててテーブルを磨き始める。  その位置で、さっきまで泥棒があぐらをかいていたのだ。  「私もお茶、いただこうかな」  「かしこまりました」  橋倉は改めて準備にかかる。  「ほーんと、面白い護衛くん」  冬子が愉快そうに話し始めた。  「ねえ、パパ。あの護衛くんとヒカリちゃんの取り合わせ。私、アリだと思うんだよね」  「何じゃと」  「冬子様までそのようなお戯れを」  玉露が注がれると、やがてふくよかな香りが辺りに立ちのぼる。  「ヒカリちゃんは真っ直ぐ過ぎるから、人より傷つく。苦しむと思う、これからも」  冬子は、湯呑みを両手で包み込んだ。  「……お兄ちゃんにそっくり」  
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