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「あ! お姉ちゃん!」
「今日、遊べるの?」
「あそぼー」
美亜ちゃんだけでなく、何人かの子がヒカリたちに気づいてくれた。
誰かが言った。
「またドロケイしようぜ!」
カゲは走った。
彼は泥棒だ。何度も逮捕の危機を掻い潜ってきた。しかし。
「よっしゃ! にーちゃん捕まえた!」
「ぬーっ! チキショー!」
子供相手に本気で悔しがる泥棒である。
尿意がないと動きにキレが出ない。
(バカね、子供相手に)
とヒカリは思った。
こうして見るといつものカゲだ。
ちょっとだけ胸がチクンとする。
彼がよそよそしいのは、自分に対してだけ──。
小さな手が、トンと自分の腰に触れた。
「ああ、美亜ちゃんに捕まっちゃったー」
ぼんやりしていたら捕まってしまった。
それにしても。
(こう走りっぱなしじゃ、情報収集どころじゃないわね)
ヒカリは、額に貼りついた前髪をかき上げた。
正直、美亜ちゃんに会うのは複雑だった。
でも不思議なもので、こうして遊んでいると爽快な気分になってくる。
こんな気持ちは久しぶりだ。
このところずっと、心に重りがぶら下がっているようだったから。
と、ヒカリはあることに気がついて、美亜ちゃんの傍にしゃがんだ。
「美亜ちゃん、それステキね」
美亜ちゃんは、小さなウエストポーチのようなものを付けている。
小学生用の、いわゆる移動ポケットというやつだ。
紺色のリボンが控えめに飾られたそれは、とってもオシャレだが市販品のようには見えなかった。
「これ? ママが作ってくれたの」
「手作りなの? すごいのね、美亜ちゃんのママ」
言ってから胸がズキッとした。
傷口のじゅくじゅくを、もう一度引っ掻いてしまったみたいに。
「これだけじゃないよ。ワンピースとか、かわいいのいっぱい作ってくれるんだ」
「へえ……」
ヒカリは、眩しい思いで手作りのポケットを眺めた。
美亜ちゃんは得意げに鼻をこすっている。
急に声がした。
「美亜ちゃん。そろそろピアノのレッスンの時間よ」
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