ヒカリとカゲの、すれ違い

2/5

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 「あ! お姉ちゃん!」  「今日、遊べるの?」  「あそぼー」  美亜ちゃんだけでなく、何人かの子がヒカリたちに気づいてくれた。  誰かが言った。  「またドロケイしようぜ!」  カゲは走った。  彼は泥棒だ。何度も逮捕の危機を掻い潜ってきた。しかし。  「よっしゃ! にーちゃん捕まえた!」  「ぬーっ! チキショー!」  子供相手に本気で悔しがる泥棒である。  尿意がないと動きにキレが出ない。  (バカね、子供相手に)  とヒカリは思った。  こうして見るといつものカゲだ。  ちょっとだけ胸がチクンとする。  彼がよそよそしいのは、自分に対してだけ──。  小さな手が、トンと自分の腰に触れた。  「ああ、美亜ちゃんに捕まっちゃったー」  ぼんやりしていたら捕まってしまった。  それにしても。  (こう走りっぱなしじゃ、情報収集どころじゃないわね)  ヒカリは、額に貼りついた前髪をかき上げた。  正直、美亜ちゃんに会うのは複雑だった。  でも不思議なもので、こうして遊んでいると爽快な気分になってくる。  こんな気持ちは久しぶりだ。  このところずっと、心に重りがぶら下がっているようだったから。  と、ヒカリはあることに気がついて、美亜ちゃんの傍にしゃがんだ。  「美亜ちゃん、それステキね」  美亜ちゃんは、小さなウエストポーチのようなものを付けている。  小学生用の、いわゆる移動ポケットというやつだ。  紺色のリボンが控えめに飾られたそれは、とってもオシャレだが市販品のようには見えなかった。  「これ? ママが作ってくれたの」  「手作りなの? すごいのね、美亜ちゃんのママ」  言ってから胸がズキッとした。  傷口のじゅくじゅくを、もう一度引っ掻いてしまったみたいに。  「これだけじゃないよ。ワンピースとか、かわいいのいっぱい作ってくれるんだ」  「へえ……」  ヒカリは、眩しい思いで手作りのポケットを眺めた。  美亜ちゃんは得意げに鼻をこすっている。  急に声がした。  「美亜ちゃん。そろそろピアノのレッスンの時間よ」
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加