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「道具や布は家に揃ってるから。何なら100均にもかわいい布が、あ」
女性が言葉を切る。
「お嬢様に100均だなんて。私ったら」
彼女は苦笑いで頬を覆った。
ヒカリは、彼女のことを可愛い人だなと思った。
“100均”の意味は分からなかったけれど。
日時を打ち合わせて別れた。
美亜ちゃんは、「お姉ちゃんが遊び来る」と嬉しそうだ。
「さ、帰ろっか」
ため息と共に言った。
めちゃくちゃ疲れた。
彼女がヒカリのお願いを断るような、嫌そうな顔をする人だったら。
もっと軽い気持ちでいられたんだろうか。
「……どーして何にも言ってくれないのよ」
前を歩く背中に呟く。
予想外に声が大きくなったのか、カゲが振り向いた。
「おん? 何か言ったか?」
「何でもない」
俯いて長い影を見つめる。
(そっか。私、カゲに軽蔑されてるんだっけ)
でも、今さら引けない。
姫華と手を組むって、自分で決めたのだから。
♡
「次の日曜日、十三時にクリニック近くの公園で待ち合わせよ」
蓮乃宮女学院高等部。
奥さんに会った。約束を取りつけたと話したら、姫華は一瞬、手負いの獣のような顔をした。
「何よ、情報が欲しいんでしょう? だったら家に乗り込めば」
「分かってるわよ」
ヒカリを遮った姫華は、既にいつもの顔に戻っている。
「あなたにしては早い仕事だと思って感心してあげてたの」
姫華が横をすり抜けていった。
心許ない隣を眺める。
この頃のカゲは、護衛についてはくれるものの一定の距離があった。
護衛とはそういうもので、鈴木さんもそんな感じだ。
でもカゲは、いつもうるさいくらい近くにいてくれたのに。
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