箱入り令嬢たち、城へ突撃するも

1/3

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ

箱入り令嬢たち、城へ突撃するも

 厚い雲が湿気を閉じ込める。  重苦しい6月の日曜日。  ヒカリと姫華は、滑り台の脇に無言で立ち尽くしていた。  互いの護衛は一人ずつ。  できうる限りのオシャレをしてきた。  TPOを考えて、やりすぎないように計算して。  それでも。  北白河の妻が公園に現れたとき、姫華は打ちのめされたような顔をした。  北白河家は、公園のすぐ傍だった。  白壁の、一言で言えば手間をかけた家。  そこかしこに植物や小物がさり気なく並べられている。  それでも嫌味がなくて、適度にきれいで開放的で。  この家を切り盛りする者のセンスが光っている。  通されたリビングからは芝生と小さな自転車が見えて。  花壇には、名前の分からない花々が咲き乱れている。  「二人からです」と、ゼリーの詰め合わせを差し出した。  彼女は恐縮して礼を述べると、「少し待っててね」と下がっていく。  「おかまいなく」  と答えたものの、緊張で喉はカラカラだ。  姫華を気遣う余裕はない。  サイドボードの写真立てが目に入って目を逸らした。  きっと家族写真。  真正面から見て平静でいられる自信なんかない。  ヒカリは、机上に飾られたアジサイをひたすら眺めた。  「いらっしゃい」  「お姉ちゃん、あそぼー」  美亜ちゃんと北白河が現れた。  ヒカリがよく知る誠先生じゃないみたいだった。  「……誠先生」   姫華が蚊の鳴くような声を出す。  「お邪魔しています。美亜ちゃん、こんにちは」  我ながら、どうしてこんな大人の対応ができるのか。  何度か味わった感覚だ。  泣きそうな自分が、そつなく笑う自分を見ているような。  「すみませんね、奥さん」  カゲと冷泉家の護衛は、立ったままグラスを受け取った。  「あの、座られては?」  「いえ、我々はここで」  戸惑い気味の彼女に、冷泉の護衛が答える。  カゲは、喉を鳴らして麦茶を飲み干した。  尿意を気にせず、喉が渇いた時に思い切り飲む。  一度やってみたかったのだ。  幸せを噛み締めるカゲを、冷泉の護衛がすごく変な目で見ていた。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加