箱入り令嬢たち、城へ突撃するも

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 「美亜。お姉ちゃんたちと遊ぶのは後って約束だろう?」  ゴネる美亜ちゃんを、北白河が宥める。  「ごめんなさいね、騒がしくって」  彼女は、ヒカリたちの前にもグラスを置いた。  「一段落したら早速始めましょ」  そう言って、美亜ちゃんの方に顔を向ける。  「美亜ちゃんには大切なお仕事をお願いしてるものね。パパを助けてあげてよ?」  「そうだった。頼んだぞ、美亜」  「お仕事? 何かしら?」  圧倒されているらしい姫華に比して、彼らと積極的にコミュニケーションを取るのはヒカリの方だった。  会ったのが初めてではないのもある。  ただ、やっぱり泣きそうな自分が、笑顔を振り撒く自分を見ているような感覚は抜けない。  「秘密ぅ。後から教えてあげる」  何だろう、気になるな。  美亜ちゃんに向かってそう言おうとしたとき、家族三人がアハハと笑い合った。  (あっ──)  何気ないその場面が、ヒカリには一枚の絵画のように見えた。  誠先生が、いつもの先生に見えない理由が分かった。  ここから先は自分が踏み込めない世界だ。  「姫華。私、降りるわ」  奥さんが道具を取りに行っている少しの間に、手短に伝えた。  美亜ちゃんと北白河が、お揃いのエプロンでオープンキッチンに立つのを眺めながら。  「はっ?」  「私たちは普通にお裁縫して、美亜ちゃんと遊んで帰るの」  「今さら何を……!」  ヒカリを責める姫華の目に、いつもの鋭さはない。  「無理よ。アンタも、本当は止めてほしかったんじゃないの?」  姫華が何も言い返さず俯くのを見て、ヒカリはホッと息をついた。  そう。これで良かったのだ。  少し離れた場所で、カゲが口角を上げた。
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