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二人は、当初の目的を忘れて裁縫に没頭した。
キッチンから甘い香りが漂ってきて、美亜ちゃんの“秘密の仕事”の内容が何となく分かってくる。
出来上がったのはマドレーヌだった。
奥さんが紅茶を淹れてくれた。
姫華は、子供嫌いなりに頑張って美亜ちゃんとコミュニケーションを取っている。
「意外とカンタンなのよ。ほら、こうして……」
ヘアメイクを教えてあげたりして。
「美亜も、大きくなったらお姉ちゃんみたいにクルクルの髪にしようかな」
なんて言われた時には、吹っ切れたように笑っていた。
ヒカリも、最初より楽な気分で過ごした。
泣きそうな自分は相変わらず存在するけど、その顔は少しホッとしているようだ。
「じゃあね」
遊び疲れて眠そうな美亜ちゃんに手を振った。
激動の日曜日が終わる──。
「また学校でね」
普段なら絶対に掛けないような言葉を掛けたのは、姫華が濡れそぼった猫のように見えたからだった。
「何よ、気持ち悪い」
眉を寄せる姫華の顔には、疲労が色濃く滲んでいる。
「フン。今日だけよ」
ヒカリが言い返すと、彼女は苦笑して迎えの車に乗り込んだ。
「ああ。いま終わったところだ」
カゲが胡桃沢家の警護班と連絡を取っている。
『では車を回す』
彼はヒカリを見遣ると、
「……いや、いい」
『しかし雨が』
警護班の話を聞かずにそのまま通話を切った。
「さて。帰るか」
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