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風邪を引いて学校を休んだ。
原因は恐らく先日の雨だ。
ほんの数日前までは、何でもいいから体調を崩して通院したかった。
しかし、今となっては不本意である。
ヒカリは、カゲに伴われてクリニックに足を踏み入れた。
ぼんやりしたままソファにもたれる。
「なあ。俺、コーヒー飲んできてもいい?」
カゲがソワソワしながら言った。
体調が優れないヒカリは、「うーん」と適当な返しになる。
(飲み物くらい勝手に飲んでこればいいのに……っていうか何よ、あのウキウキした後ろ姿は)
頼りになるのかならないのか。
よく分からない男だ。
カゲの事情を知らないヒカリは呆れた。
彼は、尿意に悩まされなくなった今、後先気にせず飲み物を購入するという夢のような生活を堪能しているのだ!
「胡桃沢さまー」
ナースに呼ばれて中待合室に向かう。
「はあ? またヒカリですの?」
「げ。姫華」
彼女も風邪を引いたらしい。
顔が赤く、明らかに熱がありそうだ。
「アンタはどうして、いつも私の真似ばかりしてくるのよ」
「失礼ね。真似しているのはそっちじゃなくて?」
互いに体調が優れないためか、非難の応酬も続かない。
二人は押し黙ってソファに沈み込む。
姫華が先に呼ばれ、それぞれ診察を済ませた。
ヒカリは、誠先生に会ったらまた苦しくなるかもと思ったが、呆気ないくらい平気だった。
彼は、ヒカリにとって頼れるお医者さまになったのだった。
コーヒーを飲み終えたカゲは、クリニックに横付けされた業者の小型車を横目に院内に戻ってきた。
ヒカリは診察を終えたらしい。
業者がフラワーベースの花を入れ替えている。
白い壁に白い床。
至って普通の風景だ。しかし。
「ん? う、がああぁぁっ……!」
久々に、来た──。
“なぜ”の二文字と、さっき飲み干した缶コーヒーが、脳内でスロットのように回転する。
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