何らかの予感…

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 「すみませんでした。お足元、お気をつけて!」  飛び散った花びらや水分をタオルで拭き取ると、業者の男性は床に膝をついたまま頭を下げた。  「構わなくてよ」  「ご苦労さま」  カゲが高速ステップで入り口を通過し、次に姫華とヒカリが悠々とクリニックを後にした。  「セレブの人って風格が違うなあ」  業者の男性が感心したように呟く。  「おい、お前。まだこんなとこにいたのか」  「す、すみません!!」  同じ業者のツナギを着た男性が血相を変えて飛んでくると、彼はまた頭を下げた。  花束をぶちまけてしまった彼は、どうやらまだ年若いアルバイトのようである。  「シーッ。病院では静かにって言ったろ」  「はい!!」  「まったく……。さ、続きをやっちまおう」  二人はせかせかと院内に戻ると、仕事に取り掛かるのだった。  胡桃沢邸に辿り着いたカゲは、便器にまたがったまま絶望していた。  また尿意に苦しむ日々が始まったと思うと泣けてくる。  短い天国だった……。  クリニックでのあれは、一体何の危機を示すものだったのか。  考えていたら、またブルリと震えがきた。  同時にトイレの電気が消える。  滞在時間が長すぎて人感センサーが切れたのだ。  「畜生!」  無人だと見なされた。  センサーにまでトイレの近さをバカにされている。  彼は悔し涙を流しながら、前後左右に身体を揺らすのだった。  
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