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♡エピローグ♡
「泥棒! おい、泥棒!」
春平と橋倉が、背中に引っ付かんばかりの勢いでついて来るのは分かっていたが、カゲはトイレへ直行した。
もう余裕がなかったのだ。
「トイレなどどうでもいいだろう!」
ドアをバンバンされる。
「ちょっとくらい待っとけや、せっかちジジイどもが!」
カゲは激昂した。
春平たちが、トイレの苦労をまるで分かっていない発言をしたからだ。
「来い!」
トイレから出ると、橋倉に首根っこを掴まれて書庫へ連れて行かれた。
カビ臭い、カゲの部屋である。
「今度の相手は何者だ」
春平が押し殺した声で問う。
ヒカリがブーケを抱えてルンルンで帰ってきたので、次なる敵が現れたと察知したのだ。
「花屋だ」
「くっ」
橋倉が書棚に拳を打ちつけた。
「自らの得意分野でお嬢様をたぶらかすとは、卑怯な……!」
「これって卑怯っていうのか?」
カゲはダルそうに壁にもたれた。
春平がキッと顔を上げる。
「そもそも貴様は何をしていた? ヒカリが危ない目に遭っていたというのに」
内股でステップを踏んでいた。
危なかったのは膀胱だ。
「そんな下心のある奴に見えなかったぜ?」
しかし本当のことは言えないので、とりあえずそう答えておく。
「甘い! 貴様は分かっとらん!」
「おっしゃる通り」
橋倉が目を光らせた。
「見たところ、あのブーケには赤いバラが六本」
「何で、んなもん見てんだよ?」
「赤いバラの花言葉は“あなたを愛している”。本数によっても様々な意味があるが、六本は……」
橋倉が言葉を切る。
春平がゴクリと唾を飲んだ。
「六本は、“あなたに夢中”──」
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