恋のパウンドケーキ

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 ♡  「先生、受け取ってくれるかしら」  「はい。きっと喜ばれますよ」  胡桃沢家の大きなオーブンでパウンドケーキを焼いた。  「お上手です、お嬢様」  ヒカリのお菓子作りに付き合うのは鈴木さんだ。  あれから。  ヒカリは、気に病む鈴木さんに何も声をかけられなかったことを詫びた上で、祖父に付いていてくれたことへの感謝を伝えた。  無論、鈴木さんは何も気にしていないと言ってくれた。  それどころか、「先生にお礼がしたい」というヒカリの相談に快く応じてくれたのだった。  横からにゅっと手が伸びてきた。  ふと気づけば、カットしたパウンドケーキが一つ無くなっている。  「ああっ、キレイにできてたのに!」  「泥棒さん! なんてバチ当たりなことをするんです!」  「うん……味はフツーだな」  「もうっ、カゲ!」  泥棒なだけあって、横取りは得意である。  カゲは、モグモグしながら飄々と去って行った。  ラッピング用の袋にケーキを入れてリボンをかける。思い切って、ハート型のシールも貼った。  「夕方の診療が始まる前に出られては? こちらは片付けておきますので」  「そう? ありがと、鈴木さん。料理長さんも、どうもありがとう」  「行ってらっしゃいませ、お嬢様。お気をつけて」  エントランスの鏡で最終チェックをする。  鼻についた小麦粉を払って、前髪を整えて。  「よし、OK!」  出かける前に離れを覗く。  春平は、点滴を打った後はすっかり元気を取り戻していた。  大事をとって、今日は自宅で過ごしている。    春平は座椅子に腰を下ろして新聞を読んでいた。  良かった。  いつもと変わりない。  ヒカリが知っているおじいちゃんだ。  後で、おじいちゃんや他のみんなにも余ったケーキをあげよう。  ヒカリは、そう決めて屋敷の外に出た。  リムジンのボンネットにあぐらをかいて煙草をふかしていたカゲが、大義そうに腰を上げる。    ヒカリの外出時には護衛が必要だと、一応は分かっているのである。  
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