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「護衛中は禁煙だぞ」
橋倉に声をかけられた。
「フン。それより止めなくていいのか?」
「何の話だ」
「大事な“お嬢様”を、あのキザな医者に近づけていいのか?」
ヒカリが教育実習生に熱を上げた時は、当主・使用人が揃ってアワアワしていたが(シリーズ②参照)。
「ああ。若先生なら心配ない」
しかし、橋倉はそのまま背を向ける。
(どういう意味だ……?)
カゲは首を傾げつつ、ヒカリの後を追った。
「すみませーん」
「まあ、ヒカリちゃん」
すっかり顔馴染みになった受付の女性がにこやかに迎えてくれた。
「誠先生に昨日のお礼をしたくて。お忙しいようならこれ、渡していただけたら」
「あら、大丈夫よ。診察始まるまで、まだ時間あるし」
女性は気安く立ち上がる。
間もなく戻ってくると、「どうぞ、入って」とヒカリにウインクを寄越した。
こんなにあっさりOKが出ると緊張してしまう。
勢い込んで来たはいいけれど……。
ヒカリは、北白河に伝える言葉を頭の中で反芻した。
「失礼します」と声をかけると、ドア越しに「どうぞー」と返ってくる。
「やあ、ヒカリちゃん」
恐る恐る引き戸を開けると、北白河が笑顔で迎えてくれた。
「あ、あのっ。昨日は、祖父を助けていただいてありがとございます!」
「いやいや。当然のことをしたまでだよ。あれから、おじいちゃんの具合はどう?」
「はい。すっかり元気になって」
「それは良かった。あ、どうぞ掛けて」
北白河が患者用の椅子をすすめてくれる。
「失礼します……。あの、これ。昨日のお礼ですっ」
ヒカリは包みを差し出した。クリニックの外まで聞こえてるんじゃないかと思うくらい、心臓がバクバクしていた。
「ありがとう! おっ、パウンドケーキ?」
北白河は、分厚い本を押しやって何とかデスクに余白を作ると、早速ラッピングを解き始めた。
「診察が続くと、おやつを食べたくなるんだよねー」
頭を掻きながら笑う北白河には屈託がない。
(誠先生、子どもみたい)
ヒカリの口からも笑みが零れた。
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