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「ねぇねぇクレアスぅ」  登録を終えたので、仲間に弄られまくっているクレアスに近寄る。 「今度はなんだよ」 「いい宿なぁい?」 「あん?」 「私が泊まれる予算内で」 「あー。そうだな。安全性も考慮するとレクリースの宿屋かなぁ」  クレアスの言葉に、冒険者仲間たちが反応する。 「あぁあぁ、そうだな、あそこならいいかもな」  どうやらレクリースの宿一択らしい。私は素直に頷く。 「わぁった。それどこ?」 「あん? あー、そうだな。ちょっと奥まったところにあって説明がちと面倒いんだが……」  これに反応したのは、やはり冒険者たちだった。 「クレアスが案内してやりゃいいじゃねぇか。なぁ?」  そう言ってニヤニヤと笑っている彼らに、クレアスが不機嫌そうに「んだよ?」と告げれば、冒険者たち揃って大声で笑い転げた。 「ついでだから、お泊りすればいい!」 「そうそう!」 「コウメちゅわん! 好きだぁ!」 「クレアス! 私もよ!」 「ぶっちゅうううう! ってな!」 「ぎゃははははははは!」  言いたい放題にからかわれるクレアスは大きく溜め息を吐いた。先程からずっとこの調子でイジられて、いい加減ツッコミ疲れをしているのだ。  その様子を見た私は彼の肩に手を置いた。 「クレアス?」 「あんだよ!」 「私……」  そう言って上目遣いで目を潤ませた。すわ泣くのかと皆が息を呑んだその時。 「貴方、好みじゃないの。私の好みは髪の毛がある人。スキンヘッドはちょっと……」  すると私言葉が笑いのツボに入ったのだろう。周りが大爆笑だ。 「ぎゃははははは。クレアス! ふ・ら・れ・て・る!」 「あははははは。これは酷い。髪の毛かよ!」 「ハゲは嫌だってよぉ!」 「クレアス。残念! ぎゃはははははは!」  場が盛り上がり、混沌としてきたとこで私はクレアスの腕を掴んだ。 「さて、宿まで案内して!」  そう言ってグイグイと腕を引っ張る。これにはやはり冒険者たちが笑い声を上げ、クレアスは溜息を吐いて歩き出したのだった。  宿に向かう途中の事。私は先程の感想を述べた。 「面白い連中だね」 「ちょっと度が過ぎるけどな」 「あはは。いやいや。私はもっとギスギスしているかと思ってたから」 「いや。まぁ何ていったらいいか……」 「私はあのノリ好きだよ?」 「そうか? 俺は少し疲れたがな」  そう言って苦笑いをするクレアスだったが、彼から少し注意があった。 「まぁなんだ。確かに気の良い連中もいる。だがそうじゃないのも居る。だからもう少し気をつけた方が良い。お前を見ていると少し怖くなる。警戒心はないのかとな?」  この物言いに思わず笑ってしまう。 「あはは。クレアスがまるで保護者みたいだ」 「あぁ。まぁ、俺に心配される義理は無いだろうが。だが、まぁ、一応、知り合った以上は、な?」 「ふぅん。クレアスって要らない苦労してそうだよね?」 「うっせーな」 「でも…… ありがとね。知り合ったのがクレアスで良かったよ」 「あ? あぁ……」  そう言って少し照れているのか顔を反対側に逸らした。そんなクレアスを見て私は思わず笑ったのだった。。  それからしばらく歩いて到着した宿屋は、小綺麗な小さな宿だった。 「ここだ」 「ん。あんがと」 「おう。じゃあ、まァ、頑張れよ!」 「うん。じゃあね」 「おう!」  そう言って去っていく男に私は、いたく感心した。 「下心も無しの本気の親切だったか。つくづくお節介焼きで損な性分だなぁ」  クレアスへの評価が密かに上昇。今度、会ったら奢ってやるか!  時間は既に日が落ちて夕暮れ時。オレンジ色だった空が紫色へと変わり始めていたのだった。
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