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 その後も取り留めの無い会話をしつつ飲み食いを続けたが、私は途中から水に変えて酔いを覚ましつつ宴会をした。さすがにずっと飲み続けられるほどアルコールに強くないのだ。 「よぅ。そういやぁゴブリンの話は聞いたか?」  クレアスの言葉に私は頷く。 「うん。何でも近場に集落ができている可能性があるんでしょ?」 「おう。そんでその壊滅を俺たちに依頼が来たんだが、コウメも一緒にどうだ?」  これに私は驚いた。今まで子供扱いだったのが突然の方向転換だったからだ。 「どしたの急に? 今までは森はアブねぇからの一点張りだったのに?」 「ん? まぁ何だ。お前の狩りの実績をギルドで聞いてな。何でもちょいちょいだが、チャージボアも狩ってるそうじゃねぇか?」  私は頷く。ちなみにチャージボアとは、スクーターぐらいの大きさの猪だ。 「あぁ、うん。何度か遭遇したからついでにね」 「ついで?」 「本当はホーンベアを狩りたいんだ」 「おいおい。幾ら何でもそいつは一人じゃ無理だ」 「うぅん。私の武器なら結構イケる気がするんだけど……」 「やめとけ。危険すぎる。やるならせめてパーティを組んでからにしろ」  そう言って首を左右に振るクレアス。私は子供扱いするなと口を尖らせて抗議する。 「別に子供扱いして言ってんじゃねぇよ。お前は、まだ実戦を始めたばかりだろ? 命をやり取りする場面は何が起こるか分からん。だが仲間がいれば助け合える。ソロでの活動は出来る限り止めておけ。俺たちでも、余程の事情がない限りやらんぞ?」  先輩の含蓄ある言葉に私は溜息を吐いた。 「分かった。仲間ね」 「おう。それで今回の話に繋がるんだ」 「どういう事?」 「ん。まぁ何だ。仲間がいる状況での戦い方や、パーティの中での役割とか立ち位置とか、そういうのを学んでもらおうと思ってな」  この言葉に私は首を傾げ、その様子を見てクレアスが笑う。 「まぁ、聞いた所によると、お前ずっとソロなんだろ? 誰かと組むメリットを知って欲しいんだ」  クレアスの親切心に私は改めて不思議に思った。だから素直に聞いてみる。 「どうしてそこまでしてくれんの?」  当然の疑問だ。クレアスは、さも当然と言わんばかりの表情で答えた。 「あん? そりゃおめぇ、縁があったからだろ? せっかくこうやって楽しく話せる後輩ができたんだ。先輩面してぇじゃねぇか」  そう言って笑うのだった。私はその言葉を聞いて、小さく「ありがと」と呟いたのだった。  その後は解散だ。とは言ってもクレアス達はこの後は二次会と称して、お姉ちゃんたちの居る酒場に突撃するそうだ。私はそろそろ眠い時間なので帰ることにした。 「そんじゃコウメ。五日後だ。五日後の水の日の朝に冒険者ギルドで待ち合わせな!」 「うん。わぁった」 「じゃあなぁ。気をつけて帰れよぉ」  こうしてクレアス達と別れた私は、ケダマと一緒に皆を見送る。 「別に寂しくなんて無いよ。ね! ケダマ?」 「わふ!」 「……でも、抱っこさせてね?」  そう言って私はケダマを抱きかかえる。 「ん? ケダマ少し大きくなった?」 「わふ!」  私は、その後。ケダマと一緒に宿へと歩いて帰るのだった。 「ケダマ。少し重いよ」 「わふ!」 ※ ※ ※  季節は晩夏。とは言ってもまだまだ日差しは暑く、朝晩も寝苦しい季節のこと。いつものように私は目を覚ました。最近では早起きも慣れたもので、まだ日が昇る前に目が覚める。これはもう習慣となっている。  ……というのは嘘で、実は私の朝は、ケダマに起こしてもらっている。起こしてもらっているというか、起こされている。毎朝ケダマが顔を舐めて起こしてくれるのだ。 「あぁ、顔がヨダレでベチョベチョ……」 「わふ!」 「え? 文句があるなら自分で起きろって?」 「わふ!」 「無理だよ。眠いんだもん」  会話が何故か成立するのはケダマが魔獣ゆえか、たまたまか。 「さて、んじゃ起きますか。今日もお仕事楽しいなぁ」  私が朝の支度を始めると、ケダマは足元でチャカチャカと爪の音を鳴らながらクルクルと回っている。尻尾をガンガンに振りながら。  外に出かけるのが嬉しいのは分かるが、それじゃ完全に犬だぞと思ったが口にはしない。どうもケダマは言葉を理解しているフシがあるからだ。  こうして私の朝は始まるのだった。
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