018:

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 朝の支度を終え、冒険者ギルドへとやってきた私とケダマは、さっそく掲示板の前を陣取る。そこへ係りの女性がやってきて掲示板に依頼を張り出していった。 「うぅん。今日もやっぱりゴブリン狩りかなぁ。ついでに他にも何か受けようか? ねぇケダマ?」  今日も今日とて、ケダマは「わふ!」の一言しか喋らない。しかし私は構わずに話しかける。 「よし。今日もゴブリン狩りだな。魔石はケダマの餌になるし、キャッシュは美味しいし。ただ問題があるとしたら、この世界の通貨を稼ぐ手段だよなぁ…… コンバットナイフを売り続けるのもいい加減、需要がなぁ。供給過多だと値段下がっちゃうし…… どう思うケダマ?」 「くぅ?」  そう言って首を傾げるケダマ。 「うん。今日もケダマは可愛いです」  ま、いっかと小難しいことを考えるのは早々に放棄して、狩りへと出かけるのだった。最近では森での狩りもだいぶ慣れたもので、慣れた場所ならマップに頼らずとも、森を歩けるようになっていた。  今日も、何時もの森の中間層部分で狩りをするという、もはや最近では慣れた行為に完全に油断していた。私がいつもの場所で狩りを始めた時、落とし穴にハマってしまったのだ。そこは最近、良く通る獣道だった。藪がわずかに切り開かれ下草も踏み固められている。そんな場所。  つまり私が、そこを通ることを知っている人間がいれば、罠を仕掛ければ良いのだ。そうすれば私という人間を簡単に狩れてしまうという状況。  そしてそれは現実となった。誰かが意図的に落とし穴を仕掛けていたのだ。 「痛っつぅ……」  最初はただの地割れか何かだと思った。しかしただの落とし穴に嵌った時以上の痛みが私を襲う。 「イダダダダ! 何!」  そうして落とし穴の底を観察してみるとと、そこには返しが付いた杭が数本打ち込まれているのが見えた。そのうちの一本を完全に踏み抜いていしまったのだ。脂汗が頬を伝い落ちる。 「これって!」  私は瞬時に悟った。これは悪意のある人間の仕業だと。 「誰が……」  生憎と心当たりなら何件かある。その程度には目立っているのだ。すると森の奥の方に人影が見えた。なので私は助けを求めることにした。 「おーい! こっち! 助けて! 罠に掛かっちゃって……」  しかし近づいて来た男を見て、私は愕然とした。 「お前は!」  そう。つい最近、私に絡んできて撃退された冒険者の男だったのだ。その男が近づいてきている。その顔にはニヤニヤと下卑た笑顔を張り付かせながら。 「よぅ。クソガキ」 「……」 「良いザマだな! はは!」 「助けては…… くれないよね?」 「はっ! 冗談だろ? 何で俺をコケにした人間を助けなきゃなんねぇんだ?」 「そう。分かったわ。だったらあっちに行ってくれる?」 「あぁ。いいぜ」  そう言ってニヤニヤと笑う男。私は一つ確信を持った。この男がここに居たのは偶然じゃない。 「一つ聞いても良い?」 「あん?」 「この罠を仕掛けたのは貴方ね?」 「はっ! さぁな!」  そう言ってやはり笑う。隣ではケダマが何時でも飛びかかれる体勢で唸っている。しかしここで証拠もないのに飛びかからせる訳にはいかない。それをすれば罰されるのは私の方だからだ。 「んじゃあなクソガキ。せいぜい頑張んな」  そう言って男はその場を去っていった。 「くっそ。参った! 足が痛い!」  杭が突き抜けた足が痛む。脂汗が大量に顔をつたっていく。それにこれは簡単には引き抜けそうもない。私は手に持っていた散弾銃を手に取る。 「これしか無いか…… クソ!」  私は散弾銃を杭が打たれている板に向ける。 「ケダマ。私にもし何かあったら頼むね」  そう言って歯を食いしばり、散弾銃を板に向けて、撃った。辺りに乾いた発砲音が響く。それと同時に私の悲鳴も響く。 「ああああぁぁぁぁああああ!!!! ぐぅ…… うぅ。痛いよぉ。痛いぃ……」  周りではケダマが心配そうにウロウロしている。どうしたら良いのかわからないのだろう。私はこういう時に仲間がいればと心底思った。板が割れ、返しの付いていない杭の下の方からなら引き抜けそうだ。  しかしこれにもやはり相当な痛みが伴うだろう。私はもうひと踏ん張りだと、残った杭を引き抜いたのだった。悲鳴にならない悲鳴が辺りに響く。額にはびっしりと脂汗。 「ぐぅぅぅぅぅぅぅ…… うぅぅ……」  地面で悶え、苦しむ私にケダマがピスピスと鼻を鳴らしながら私の怪我をした足を舐める。私は痛いのも我慢してケダマに語りかけた。 「大丈夫。大丈夫だから…… 大丈夫……」  まるで自分に言い聞かせるようにそう呟き続ける私だったが、そこにさらなる危機が訪れようとしていた。
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