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 集落にある粗末なテントの破壊。  それから隠れているゴブリンを殺す作業が開始された。  CQB(Close Quarters Battle)と呼ばれる状況だ。  元々は占拠された建物などに突入し、人質を救出したり殲滅したりする目的の近接戦闘を指す言葉だ。  状況的に接近戦になりやすいので、私はSCAR-Lの銃床(ストック)を肩に付け、銃口を下に向けるローレディポジションと呼ばれるスタイルで移動を開始する。  そうしてテントを破壊してまわっていると、わずかに啜り泣く声が聞こえてきた。  足元にいたケダマが真っ先に反応。  そちらへ顔を向けた。  私もそちらへ向く。  そして恐る恐る、その一際大きなテントに近づいていった。  そして入り口から薄暗いテントへと踏み入っていく。  臭く、汚い部屋だ。  私のカバーをする為にセーラが後ろから付いてくる。その表情はかなり険しい。 「コウメちゃん。何を見ても冷静にね?」  そんな呟き声が聞こえてきた。そしてやはりというかテントの奥には人が居た。 「人間の、女性……」  そこには薄汚れていはるが人間の二十代ぐらいの女性が居た。  全裸だ。  その表情にはほとんど生気はない。  無表情で一点を見つめているだけ。  私の表情が固まる。  全身が氷漬けされたように寒い。  手が震えているのが自分でも分かる。  そこへ「だ、れ?」と言う、か細い声も聞こえた。私はビクリとして、そちらにも視線を移した。  そこには十代半ばぐらいの人間の女性が居た。  やはり全裸だ。私はその子の全身を見る。そこかしこが擦り傷や青あざだらけで、その痛ましさに言葉を失った。  私を見た少女がポロポロポロと泣き出した。  そして私に向かって「助け、て」と手を差し出してきた。  思わず手を伸ばした。  そして少女の手を握る。  グローブ越しにとはいえ、その手に確かに命を感じた。  しかしその女の子は続けてこう言った。 「私、を。殺して。下さい」と……  私は今にも泣きそうだ。首を左右に振る。しかし少女は言う。 「私のお腹に、ゴブリンの赤ちゃんが……居ます。殺して、下さい」  そう言ってやはりポロポロと泣く女の子。  私は思わず後退り、そしてテントを出た。  そこで尻餅をつく。  頭がグワングワンとする。  今にも意識を失ってしまいそうだ。  そして胃から込み上げてくる物を吐いた。  しばらくそうやってゲェゲェとやっていると、セーラがテントから出てきた。  その手にはナイフが握られている。それに気が付いた私はセーラに問う。 「こ、殺したの?」  セーラが静かに頷く。 「こうしてやるのがいいんだよ。生きるているより、死んだ方が良いこともある」 「でも……」 「コウメちゃん。ゴブリンの子供を生んだ女性が、その後の人生をまともに生きられると思うの?」 「……」 「かわいそうだけど、そういうこともあるの。分かって」  私の全身が震える。それは力として全身を駆け巡った。私は拳を地面に打ち付け立ち上がった。  これがゴブリンのすることなのだ。  そういう生態だとしても、やはり許せるものじゃない。 「殺してやる!」  銃を構え、私は今まで以上に真剣にゴブリンを探す。その様子を見てセーラは少しだけ安心したようだった。  その後も集落を壊して歩いた。  人間の女性が何人か見つかったが、全員が死を望んだ。  そしてその全員が妊娠していたので殺した。  私も女性を二人殺した。  自分だけが綺麗事を言っていてはいけないと思ったからだ。  ナイフでなるべく対象の女性が苦しまないように。ひと思いに殺した。  これらが私の最初の殺人となった。  殺した女性の中で最後に「ありがとう」と言って笑った女性が居た。それはいくらか私の心を楽にしてくれた。  私は一生、今日のことを忘れないと心に誓ったのだった。
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