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026:
「眉間を一撃……か。恐ろしいまでに正確で威力のある攻撃ね」
マチルダがゴブリンキングの死体を検分して述べた感想だ。私はそれに肩を竦めただけで答えた。現在、私たちはゴブリンたちの死体から魔石を抜き取る作業をしている。
頭をかち割る作業だ。
正直、面倒いがこれが報酬の一部なので、やらない訳にはいかない。
一つ一つはゴミクズだがチリも積もれはなんとやらというわけだ。
ちなみに紅の風も一緒だ。
「ねぇねぇクレアスぅ」
私がゴブリンキングの解体をしているクレアスに近寄り質問を始めた。
「さっき紅の風の人と何を話していたの?」
「ん? おう。今度一緒に仕事しねぇかだとさ。ゴブリンキングとの決闘。見事だったって褒められたんだ。負けちまったけどな。オレもまだまだだな。そうだコウメ?」
「うん?」
「ありがとな。助かったよ。いい腕だ」
「だしょ?」
そう言って胸を張る私にクレアスが笑った。
私も笑う。何だか久しぶりに笑った気がする。生きているってこういうことだと思った。
「さってと。さっさと解体を済ませて引き上げるかね」
クレアスが、そう言って笑うので私は応じた。
「うん! 当然この後は打ち上げだよね?」
「たりメェだろ? 反省会も兼ねてな?」
「よっしゃ! んじゃさっさと解体しますか!」
ぐでんぐでんに酔いたい気分なのだ。さっさと解体を済ませるために行動を開始したのだった。
※
※
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解体を始めて、もうすぐ日が暮れようかという頃に、ようやく作業が終わった。
それでその後の片付けは、駆け付けてきたギルドの作業員に任せて、私達は撤収となったのだった。
その足で、そのまま流れ込むように酒場へ向かって飲み会を始めた私たちは、その当初の予定通り、ぐでんぐでんになるまで飲んだ。
ちなみにこの飲み会は『紅の風』も合同だった。
クレアスと意気投合して裸踊りとかやっていたが、私は途中で机に突っ伏して寝た。
翌朝。
何故かセーラに抱きしめられた状態で目が覚めた。
まぁセーラの大きな胸は気持ちがいいので問題はないのだが。
しかしそれでも頭がズキズキと痛む。
完全に二日酔いだ。
私はそっとベッドから抜け出し井戸へと向かった。
足元をケダマもついてくる。
尻尾をふりふりしながら。井戸で顔を洗い、ついでに水を飲んだ。
気持ちのいい朝だ。天気は快晴。
でも昨日の陵辱されて死を望んだ少女たちの事を思い出すと少し胸が居たんだ。
気持ちがざわつくのだ。
私は目に入った井戸の側に生えていた黄色い花を手折る。
そしてそれを空高くへと掲げた。風が吹き、その花が風に乗って飛ばされていった。せめてもの手向けだ。
それで少女たちへ思いを馳せるのを止めることにした。
いつまでも思い続けている訳には行かないのだ。
私は現在を生きていて、今日も明日も生きなければいけないからだ。
ケダマが「くぅん」と鳴く。
私は屈んでケダマの頭を撫でた。
そして今日を生きるために歩みだしたのだった。
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