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瞬間、ティアラの膝上で蘇った(死んでいない)リュセルが瞬時に起き上がり、悲鳴を上げる。
「そんな効力、ないだろうがよ」
青い顔をして泡を吹きかけているリュセルに向かい、ジュリナはとりあえずつっこむ。そんな呆れ顔のジュリナに向かって、レオンハルトは極上の頬笑みを向けた。
「ジュリナ」
聖者のように、清らかで美しい微笑。金色に輝く瞳が、その神秘性を高めていた。
「な、なんだい?」
見る者を虜にするような麗しさ。それを見たジュリナは、背筋にゾクリと寒気が走るのを感じる。
「…………」
ジュリナが不審そうに見守るその先で、レオンハルトは腕を高く振り上げた。
「?」
瞬間
ダアアアアンッ
ガッシャーーーーーーーーーーンッ
「「「!!!!?????」」」
三人が目を見張る先で、レオンハルトが素手の一撃で逆鏡を粉砕させていたのだった。
ズドーーーーーーーーーンッ
粉々に割られ倒れた逆鏡。
「ぎゃああああああああっ! お、おおおおおおおお前~~~~~~、折角見つけた古の遺産、それも、ものすごく素晴らしい細工の施された逆鏡を~~~~! 何、勝手に壊してるんだよ、阿呆!」
呆然とするリュセル&ティアラ、婚約者組と違い、即座に現実に戻ったジュリナは、壊された逆鏡に駆け寄り、嘆き怒る。
「阿呆? 阿呆のお前に言われたくはないな」
「ぁああん? 何だって!? それが、他国の宝を壊した奴が言う台詞かね?」
レオンハルトの冷たい声を聞くと同時に、ジュリナは剣呑な眼差しを隣に佇む美麗な元婚約者に向ける……が。
「逆鏡(ぎゃくかがみ)。またの名を、逆さ鏡(さかさかがみ)。三千年の昔、邪鬼が作り、当時の鏡主が完成させたとされる神の遺産が存在するという話が伝わっていると、前玉主アリーナ姫に聞いた事がある。彼女はこうも言っていた、逆さ鏡を発見したら、即、破壊しろとね」
瞬間、怒りに赤く染まっていたジュリナの顔が青くなる。
「つまりは、見つけ次第、逆さ鏡の伝説を終わらせろと教えを受けたはずなのだ。私も……そして、お前もな」
ギラリと鈍く光るレオンハルトの瞳の威力に圧倒され、さすがのジュリナもタジタジする。
「ジュリナ殿……」
リュセルは恨みのこもった胡乱な目を、ジュリナに向けた。
教訓:先達者の話は、居眠りせずによく聞くべし
「それにしましても、邪鬼の作ったものを私達の祖先が完成させたっていうのも、おかしな話ですわね?」
気候の穏やかな暖かな日であるにも関わらず、アシェイラ兄弟二人の冷たい視線にさらされて、ブリザードの中にいる自業自得な姉を横目に、ティアラは疑問を口にする。
「この、イプロスという三千年前の鏡鍵が残した日記を全部読む限り、彼の半身は邪鬼に騙されたのだろう」
「まあ」
可憐に目を見張ったティアラはゆっくりと立ち上がると、手痛い教訓により呆然自失状態の自分の半身の元へと寄った。
「お姉様」
「ふ、そうさ……そうさ、全部、あの時居眠りをして話を聞いていなかった、私の責任さ。しかししかし、こんな見事な彫刻の施されたものを、いとも簡単に……レオンハルトの朴念仁」
ぶつぶつと呟きながら、逆鏡の額の部分の欠片を積み重ねるジュリナは、反省モードと落ち込みモードが一緒になっていた。
「お姉様。どうぞ、わたくしの部屋においでになって? 今度一緒に素敵な鏡を見つけに行きましょうよ」
そう言いながら姉の頭を撫で撫ですると、ジュリナは小さく頷く。
「うん」
いつも自信満々で余裕綽々の年上の半身がたまに見せる、こういう子供っぽい部分が、ティアラは可愛く思えてならない。
「さあ、行きましょう」
項垂れるジュリナの腰を抱いて部屋を出て行くティアラは、最後にレオンハルトとリュセルににっこりと微笑みかけた。
「さすが、ティアラ姫だ」
リュセルはその心の大きさに、自分の婚約者の偉大さを見る。
「…………」
レオンハルトはそれに小さくため息をつくと、大きな音を聞きつけて駆けつけてきた使用人達が恐る恐る部屋の中を覗きこんでいるのに気づき、指示を出した。
「この部屋の片づけを頼む」
崩壊した扉(レオンハルトが壊したものだ)
投げ飛ばされ、壊されている家具類(これもレオンハルトが……)
粉砕された、大きな姿見(逆鏡)(以下同文)
自分の指示を聞き、使用人達が慌ててジュリナの部屋の後始末に取りかかったのを見ると、レオンハルトは今だ呆然としている様子のリュセルの腕を掴んだ。
「!?」
いきなり腕をつかまれて、驚いたように目を見開くリュセルの体をソファの上から腕一本で引き上げ、立ち上がらせると、レオンハルトは言った。
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