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(9)おまけ*
「お帰りなさいませ、レオンハルト殿下、リュセル殿下」
転移装置を使用して自国アシェイラに戻ったリュセルは、レオンハルトに引っ張られるがまま自室に戻ると、深々と頭を下げた小姓の少年をついつい凝視してしまう。
じーーーーーーーーっ
「リュ……リュセル殿下?」
それこそ穴が開くのではないかと思われる程、その凛々しい月の美貌に見つめられたティルは頬を赤く染め上げて、自分の主人の名を呼ぶ。
侍女でなく小姓に戻っているティルと、その隣でつぶらなお目目をクリクリさせているクマ吉の姿を確認し、戻っているとは分かってはいたが、リュセルはほっと息を吐き出してしまう。
「ここは、もういい。下がりなさい」
レオンハルトの命令に、ティルとクマ吉は同時に頭を下げて部屋を出る。
「失礼致します」
リュセル付きの小姓達を下がらせたレオンハルトは、王子仕様に戻っている自室を見回して安堵している様子の弟の肩を抱いた。
「おいで」
瞬間、劇的にリュセルの顔が一気に強張る。
ど、どどどどどどどこに!?
そんな心の叫びも虚しく、弟の肩を抱いたレオンハルトは、迷いのない足取りで自室の応接の間を横切り、奥の寝室の扉を開ける。
「昨日も言い渡したが、しばらくの間部屋を出る事は禁止だ。これは、具合が悪いと勉学の授業を休んでおいて外出したお前へのペナルティーだからね。今度こそきっちりと守りなさい。いいね?」
性別が元に戻った世界では、リュセルはバッチリ男の為、生理痛ではなく、具合が悪かった事になっているようだった。
「分かった」
ジュリナに振り回されただけで、どう考えても自分が悪かったという感じがしないといえばしないのだが、レオンハルトに秘密裏に色々と画策していたのは事実だ。
それに、女版レオンハルト、レオナルージェの麗しさに夢中になるあまり、兄は姉のままでもいいとか不謹慎な事を考えていたという後ろめたさがある為、素直に従う。
性別変換の二日目の夜中に恋しくなる以前は、レオンハルトの事を思い出しもしなかったのだ。考えていたのは、レオナルージェの匂いたつような美しさと豊満なボディの柔らかさのみ。
レオナルージェ=レオンハルトである事は間違えないのだが、性別変換によりその麗しさが増した兄の姿は、もはや驚異的だった。
まさに、天女。
この世の奇跡のような、天女。
リュセルはうっかりと、レオナルージェの事を思い出して、ボ~っとしてしまった。
「どうした?」
怪訝そうな兄に導かれるがまま、寝室の中央にある天蓋付きの寝台に腰を下したリュセルは、うっとりと呟いた。
「いや~、超絶に麗しかった、レオナルージェ姫の事を思い出していたのさ」
「レオナルージェ?」
胡桃色の眉をひそめて問い返す兄の美貌を見上げ、リュセルは頷く。
「お前の女版だ。まるで高級娼婦のような濡れたような色香と、聖女のようなストイックさを合わせ持つ、それはそれは典雅な美姫だったぞ」
リュセルの夢見心地のような声に、壊す前に逆鏡越しに見た自分の姿をレオンハルトは思い出した。趣味の良い灰鼠色のドレスを着た、自分と同じ顔をした胡桃色の髪の姫君。
リュセルと違い自分の顔にさして思い入れのないレオンハルトは、鏡に映った自分の女姿を見ても、何とも思わなかった。
「そんなに良かったか? 私の女版は?」
淡々とした口調でそう尋ねた兄に、リュセルは夢見る瞳のまま小さく頷く。
「そうか、それは良かったな」
レオナルージェの事を思い出しているのか、うっとりとした目で自分を見るリュセルが可愛い。
このまま撫でて、思う存分甘やかしてやりたいが、仕置きは仕置き。甘やかしてばかりでは、弟の為にならない。
だからといって、痛みを伴うような過酷なものを愛しい半身に科せられるはずもなく、今までもおいたの過ぎたリュセルには悦楽を我慢させる事を仕置きとし、その体に教え込んできた。
痛みと快楽。
リュセルからすれば、どっちもどっちのような気もする。
「では、リュセル……」
レオンハルトは身をかがめると、今だうっとり気味のリュセルの耳元で、ささやき命じた。
「脱ぎなさい」
脱ぎなさい。
そう命じられた瞬間、リュセルは一気に現実に戻る。
「は?」
「は? ではない、脱ぎなさい。すべて」
その言葉により、リュセルは現在の自分の状況を再認識した。仕置きの真っ最中だったのだ。その事に気づいた瞬間、スーーーーっと血の気が引いた。
「どうした? 脱げぬと言うのなら、脱がしてやろうか?」
レオンハルトのまったく熱を感じないそんな低い声と共に、優美な指先が伸びてくる。ゆっくりと上着の銀釦を外され、肩から黒色をした上着が落とさせるのを見つめながら、リュセルは心臓がうるさい位に鳴るのを聞いていた。
兄の仕置きは、久方ぶりだった。過去にされた甘い責苦を思い出すだけで、レオンハルトの愛撫に慣らされた体は熱くなる。
親が小さな子供にするようにリュセルの上着を脱がし、靴を脱がし、上衣と下衣を脱がし、一糸纏わぬ裸にすると、レオンハルトは寝台の上に均整のとれた青年の体を押し倒した。
「レオン!」
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