(9)おまけ*

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 幾度となく行った過去の交わりの所為でレオンハルトの体に溺れきった体が、衣服越しの熱を求めて縋ってくる。 「リュセル。いい子だから、少し我慢するんだよ」  目を細めてそんな弟の様子を見下ろしていたレオンハルトは、寝台の横にあるサイドテーブルの引き出しをおもむろに開け、中に安置されていた小箱を取り出した。  見事な細工の施されたその小箱を開き、中のものを取り出したのを見た瞬間、蕩けきっていたリュセルの顔が強張る。 「レレレレオン、そ、それは!?」  弟の慌てたような悲鳴に、レオンハルトは艶やかに微笑む事で答えた。  レオンハルトの白い手の中にあるそれは、繊細かつ美しい彫刻が目を引く、手枷……そして足枷と付属の銀色をした鎖。  見覚えのあり過ぎるそれが、無造作に寝台横のサイドテーブルの引き出しから出てきたのにショックを受けて、リュセルは気絶しそうになった。 「ひいいいいい~、ごめんなさいごめんなさい、もう致しません! ジュリナ殿がおかしな事をやり始めたら、関わらないように、即効で逃げだしますううううう~~~~!」  そう悲鳴を上げながら懇願して暴れるリュセルを難なく押さえつけ、レオンハルトはその手首に手枷をはめ込んでいた。 「暴れるんじゃない。私はお前に傷をつけるつもりは毛頭ないのだからね」  いくら精密に丁寧に作られた銀の枷でも、こう暴れられては怪我をしかねない。  低い声で言い含めるように告げられた言葉に対し、リュセルは条件反射でピタリと動きを止める。 「いい子だ」  レオンハルトは渋々従うリュセルを満足そうに見下ろしながら、手枷に銀の鎖をはめ、その鎖を寝台の柵の部分に通して長さを調節すると固定した。つまりは、両手首をひとつに括られ頭上で固定された状態だ。  まさに、まな板の上の鯉状態。もう、どうにでも料理してくれと、言わんばかりの格好である。  弟の腕の自由を奪ったレオンハルトは、上体をずらし、寝台の下方へ移動すると、今度はその足首に足枷をはめた。足の鎖は幾分長めに調整し、顔を強張らせているリュセルの頬を撫でながらうっそりと笑った。 「くく、いい眺めだな」 「こんな状態にして、どうするつもりだ」  眦を上げて凛々しくそう問うが、情けない事に声が震えている。 「そうだね。三日三晩の間、その格好で私の目を楽しませる。……というのも、いいが」  空恐ろしいそんな台詞に、リュセルは口元を引きつらせながら言い返す。 「しょ、食事とか。ト、トトトトイレとかどうするんだ!」 「大丈夫、私が面倒見てあげるさ」  何でもない事のようにそう告げられたリュセルは、何とかレオンハルトの意思を変えさせようと必死に言い募る。 「三日もこんな姿(真っ裸)でいたら、風邪引くだろ~が!」  苦し過ぎる理由をつけたリュセルのその訴えに、ようやくレオンハルトは表情の乏しい美貌に翳りを見せる。 「それもそうだね。いくら温暖気候の土地とはいえ、三日も裸ではな」  それから少し考えた後、レオンハルトはおもむろに寝室を出ていった。 「オイ、人をこんな状態で寝台に磔にしておいて、どこ行くんだ! この変態兄、鬼畜王……超美麗顔~~~~!」  リュセルがジャラジャラと鎖のこすれ合う音を響かせながら騒いでいると、小さな小瓶を持ったレオンハルトが戻ってきた。 「まったく、どうしてそう下賤な言葉を覚えてくるのだ。お前は」  不快そうにそう言いながら小瓶の蓋を開けたレオンハルトは、寝台の端に腰かける。そのまま予告もなしにリュセルの膝を割ると、むき出しのそこに小瓶の中身を半分垂らした。 「っ!? な……、ちょっ、何して……」 「心配するな、ただの香油だ。先日ジュリナの奴が押しつけていったのだよ」  香油とジュリナの組み合わせに、リュセルは嫌な予感がするのを感じる。 「ジュリナ曰く、どんな淑女でも娼婦に変えてしまう程、素晴らしい媚薬らしい。まったく、このような物をどこで手に入れているのやら」  使うつもりのなかったこれを、まさかこのように使うとは思っていなかったレオンハルトだ。 「人体に影響はないとの事だ。存分に、その身で味わうがいい」  その美貌に浮かぶ淫蕩な微笑がゆっくりと伏せられて、自分の唇に重なってくるのをリュセルは受け止めながら、段々と下肢から責め上がる熱と疼きを感じていた。 「……う、ぁあ……ああぁっ」  豪奢な調度品が彩る寝室内に、聞く者をせつない気持ちにさせるような淫靡な低い呻き声が響く。室内を照らすのは、寝台横のサイドテーブル上に置かれた光石の光のみ。  小さな炎を元とする燭台の明かりよりも明るく、室内を照らすような炎と大きな光石で構成されたランプよりもはるかに暗いその光は、寝台の上を妖しく照らしていた。  王子の寝室に相応しい存在感で中央に置かれたキングサイズの寝台。天蓋に覆われたその寝台の上で身をよじり、身悶えているのは一人の青年。白い手首にはまるで罪人のように枷がはめられ、頭上で括られている。
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