(9)おまけ*

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 しかし、彼が罪人でない事は、手首と足首を覆う銀色をしたその枷自体が証明していた。見事な彫刻が細工された枷は、一見しただけで価値あるものだという事が分かる程、高価な代物だったのだ。  そしてその枷をはめられた青年本人も、その銀の枷がよく似合うような容姿の美青年だった。  儚くきらめく銀糸の髪が、青年がせつなげに首を振るたびにシーツの上で散り、欲望を孕んだ薄い銀の色をした瞳は潤みきっている。  綺麗に無駄なく筋肉のついた肢体には何も纏っておらず、すべてが光石の光の下に照らし出されていた。  甘く凛々しい。まるで正統派の王子の見本のような男らしい美貌はすべての女性を振り向かせ、虜にするような引力を秘めているような素晴らしいものだ。  そんな青年が鎖に縛られ、全裸で寝台の上で悩ましげに体を揺らす様は、とてつもなく淫猥な光景だった。 「はっ……ぁあっ、あうっ、ぁああやぁ」  股間に振りかけられた媚薬の所為で青年の体は蕩けきっており、与えられぬ刺激に疼ききっている。  青年……リュセルは、月の女神の寵児と謳われる美貌をせつなげに歪めたまま、熱く解放を求めて天上を向いている自身を慰めたくて、腕をがむしゃらに動かすしかない。  しかし、頭上で捕らわれたままの手を動かせるはずもなく、太腿を擦り合わせて啼いた。  そんな中 「それでは、見えぬ」  淡々とした、感情の全く表れぬ低い声が響き渡る。  寝台の上で悶えるリュセルから少し離れた場所に設置された肘掛椅子。そこに優雅に腰かけた麗人が、肘掛にその右肘をついたままの姿勢で駄目出しをしたのだ。  その位置からならば、リュセルの痴態のすべてを見つめる事が可能であろう。  そんな場所で、それまで何を言う事もなく、じっと寝台の上に視線を向けていた、兄、レオンハルトは、リュセルがあまりの快楽に悶えるあまり腿を擦り合わせた行為を咎めた。 「脚をきちんと開いてすべてを私に見せなさい、リュセル」  琥珀の色をした瞳には、いつしかチラチラと金色の色が見えはじめ、冷静な口調、声、表情とは異なり、その目は熱く熟んでいるようである。 「ぁあっ、は……ぁああああっ」  息も絶え絶えになりながら兄の指示に従って開かれる下肢は、既に彼自身が放つ淫蕩な蜜で濡れきっている状態だ。  その卑猥さを、目を逸らされる事なくレオンハルトにすべて見られている。まるで、視線に犯されているようだった。  媚薬の影響で熱く疼き、淫らにくねる白い肢体。  汗に濡れる肌。  絶えず嬌声を上げる、濡れた唇。  ヒクヒクと震える、先走りの蜜で濡れきった下肢。  淫らに蕩けきった、その体のすべてを見つめていたレオンハルトは、不意に腰かけていた椅子から立ち上がり、ゆっくりと寝台の脇へと歩み寄ると、端に腰を下した。 「ずいぶんと悦さそうだね」  身を伏せてリュセルの耳元でささやくと、それだけで弟は身を震わせ、達しそうになる。 「まだ、駄目だ」 「あうっ」  レオンハルトの長い指に根本を締めつけられて、リュセルは小さな呻き声を上げた。 「すごいな。そんなにこの媚薬が気に入ったかい?」  弟の下肢の濡れ具合を実際に自身の手で確かめながらそう尋ねたレオンハルトは、軽く首を傾げ、満たされぬ欲望に荒い息を吐く目の前の美貌を覗きこんだ。 「達かせて……頼む、か……らぁ、あ、達きたい……っ」  途切れ途切れの哀願を聞いた後、レオンハルトは軽く眉根を寄せる。 「お前は本当に我慢がきかないな。本当はもっと我慢した方が悦くなれるのだが」 「達きた……はっ、あぁ、も、手……ほど、いて……」  ガシャガシャと鎖のこすれる音を響かせて、頭上で括られた両手を振るリュセルに、レオンハルトは表情を変えぬまま言った。 「仕方のない子だね。腕が自由になっても自分で慰めぬと約束出来るなら、ほどいてやろう」  そんな、あんまりと言えばあんまりな言葉にも、熱に浮かされ悦楽に支配されたリュセルは何度も頷く。弟の返事に満足したレオンハルトは、寝台の柵に括りつけていた鎖を器用に丁寧に外した。 「ああ、あ、あ」 「駄目だよ」  途端に約束を破り、自身に手を伸ばそうとするリュセルの両手を掴むと、立て掛けた彼自身の膝の上に導く。  自分で自分の股間をさらけ出しているような格好を強制させられ、我慢出来ずに腰を揺らす無意識の媚態を晒す弟の姿を見つめ、レオンハルトは薄く笑った。そうして刺激を求めて突き出された腰を押さえ込み、固定したレオンハルトは、ゆっくりとその端麗な美貌をそこに伏せる。 「あっ……、ぁああ、ああああっ」  せつなく涙をこぼしていた自身を濡れた温かな口内に招き入れられる至上の感触に、リュセルは身悶え、自身の下肢の挟間から零れ落ちた兄の長い髪を掴んだ。  薄い唇から出た赤い舌がリュセル自身に絡み吸いつく様が、ひどく淫らで扇情的だった。 「んっ……ん……っんぁ、ああっ」  そんな、ずっと待ち焦がれていた刺激に、媚薬によりドロドロに蕩けた体が耐える事など出来るはずがない。口淫と呼べぬようなわずかな刺激だけで、リュセルは達してしまう。
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