(9)おまけ*

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 啼き過ぎて掠れた声を上げて兄の唇を追ったリュセルは、深く貪るような口づけを交わしながら、再びレオンハルトが自分の膝を割ろうとする仕草に気づく。 「あ、ぁあっ……や、レオンッ、も……もう無理。ダメだ……嫌だっ、ぁあああッ!」  容赦ない二度目の繋がりに悲鳴を上げて目の前の体に強く縋ると、レオンハルトの欲情を孕んだ金色の瞳を間近で見つめ、その瞳の魔力に捕らわれてしまう。 「何が嫌なんだい? 本当はもっと欲しいのだろう? こんなに内を絡みつかせて……」  そんな甘いささやきを聞くと同時にリュセルは内股を引きつらせ、啼きながらも素直に自身を反応させる。  リュセルは、それからしばらくの間、嬌声を室内に響かせ、甘い啼き声でレオンハルトの烈情を誘い続けたのだった。  そうして、媚薬の効能に引きずられるようにしてレオンハルトと淫らに何度も交わったリュセルが意識を手放したのは、明け方になってからだった。  傍で嗅ぎ慣れた、高貴な香りが鼻腔をくすぐる。己が半身である、兄の纏う香り。  ティルに聞いた話によると、この香りの元である香水は、レオンハルトの為に王宮専属の高名な調合師が作った、世界に一つしかない特注品であり、兄しか使用を許されていない物らしい。  それ故に、傍に来るとすぐに分かる。  そんなレオンハルトの香りが一番近くにいるリュセルに移らぬはずがなく、レオンハルトの纏う香りは、そのままリュセルの香りであるというのは、周知の事実だった。  そんな事を思いながら、レオナルージェの香りはこれよりも若干柔らかなものだったような気がして、リュセルは目を閉じたまま小さく笑う。  長い胡桃色の髪の琥珀の瞳をした、類希なる傾国の美女。  どちらか選べと言われれば、鬼畜でも厳しくても、リュセルはレオンハルトを選ぶのだろうが、レオンハルトの女版であるレオナルージェは、もう会えぬのが惜しくなる位麗しかった。  やっぱり、もったいなかったよな~。と、夢なのか現なのか分からぬ半覚醒の状態のままリュセルが思っていると、唇に何かが触れた。指らしきものにゆっくりと唇をなぞられ、口を開かせられる。 「んっ」  柔らかなものが唇を覆い、口内に滑り込んできた暖かなそれに舌先をなぞられ、リュセルはゾクリと身をすくませてしまう。 「ん……、ん、ん、……はぁ」  気持ちいい。  夢中になって差し出された甘やかな舌の動きに合わせて、舌を淫らに絡めた。そのまま、重なってくる体の胸元を両手でまさぐったリュセルは、ぼんやりとしながら目を開けた呟く。 「あれ? …………ない」  その瞬間、自分に覆いかぶさっていた体の動きが止まる。 「……ん?」  段々と意識が覚醒し、ぼんやりとしていた視界の焦点が合うと、リュセルは硬直した。  どんな美女よりも美麗な男の顔が、目の前にあったのだ。  昨夜、その白い裸体を惜しげもなく晒していた兄は、今現在、きっちりと宮廷衣を身につけている状態だった。 「何がないというんだい?」 「え~~と、だな。つまり、その」  胸が…………。  困ったように目を泳がせたリュセルは、そこでようやく、現在の自分の状況を察する。  きちんと宮廷衣を着込んでいる兄と違い、自分は衣服を何一つ身につけず、薄い掛け布一枚というあられもない姿のまま、寝台の上に横たわっていたのだ。  その肌に多く残る愛撫の痕が、昨夜の情交の激しさを物語っていた。いつ意識を手放したのかも記憶にない程、淫らにレオンハルトの与える愛撫を強請ったという証拠に、腰は重く痛いし、行為のたびに兄を受け入れる場所は、ジクジクと痛んだ。  ここまでひどいのは、久しぶりである。 「あの媚薬は、お前と相性が良すぎたようだな」  その言葉を聞きながら、昨夜、まるで淫乱な獣のようにレオンハルトを欲し、そして焦らされたリュセルは、泣き過ぎの所為で目元がヒリヒリするのを感じていた。  その腫れぼったい目を窓の方に向けると、綺麗な夕日が部屋の中へと差し込んでいるのが見える。 「きちんと湯浴みをさせたから、体はさっぱりしたと思うが」  レオンハルトの言葉通り、シーツもリュセルの体も、意識を失う前は汗と蜜にまみれてドロドロであったのにも関わらず、シーツは真新しいものに変えられ、体も湯を浴びて(記憶にないが)綺麗になっていた。 「中が少し腫れているから、薬を塗るからね」 「……薬?」  レオンハルトが手に持っている美しい花の絵が描かれた小さな陶器のケースに入れられていた塗り薬を見た瞬間、リュセルは嫌な予感に顔を引きつらせる。 「さあ、足をお開け」  案の定、響いた無情な言葉。リュセルは心の中で悲鳴を上げたのだった。  やっぱり、レオナルージェのままだった方が、良かったかもしれない。  リュセルは無理矢理裸の脚を広げられながら、ついそんな風に考えてしまったのだった。
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