宴セレクション

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「お嬢様は最近までアメリカに留学されてたんですよね?」  営業部だけあって売野は情報収集能力に長けている。 「お嬢様はやめてください。麗華で良いです」 「じゃあ麗華さん。何を学ばれたんですか? 経営学ですか?」 「英語かしら」  ふふふと口を押さえて麗華が笑うと、男たちはみな目を輝かせゴクリと息を飲み込んだ。麗華の留学は単なるお嬢様の語学留学にすぎない。麗華は会社を継ぐ気はないのだ。ならばその伴侶が社長になる事になる。 「なるほど。これからは海外との取り引きも増えますからね」 「その口火を切ったのは売野さんだと伺っております」 「ご存知でしたか。たまたまですよ」 「たまたまであの大会社と契約なんて結べるわけありませんわ。感心しております」 「光栄です!」  そこへ京極が割って入った。 「麗華さんはどちらの大学へ通われたんですか? 僕はサンフランシスコで政治学を学びました」 「まあ、それでは京極さんは将来政治家に?」 「いえ、父のあとは兄が継ぐので、僕は自由にさせてもらってます」 「あら、せっかく政治学を学んだのに?」 「いやあ、勉強よりもスポーツばかりしてました」 「何をされてたんですか?」 「アメリカンフットボールです」 「まあ素敵。それでこんなに逞しいお体なんですね」  売野と京極は盛んに自己アピールをした。一方計倉は静かに弁当を食べていた。天才の余裕だろうか。それとも逆玉の輿には興味がないのだろうか。  こんな時何を言えば場が盛り上がるのか俺は知らない。ましてや女性の喜ぶ話題なんて思いつかない。俺は1人で黙々と弁当を食べた。  みんなが弁当を食べ終えると古澤がジェンガを中央に置いた。 「少しゲームでもいかがですか?」  売野と京極は初めははしゃいでいたが、段々ブロックが不安定なると難しい顔をしてパスをし始めた。諦めモードのようだ。しかし計倉は涼しい顔でブロックを抜いていった。 「さすが数学オリンピックで入賞しただけありますね」  麗華の賛辞に喜びもせず、計倉は淡々とブロックを抜いた。  それからは俺と計倉の一騎打ちだった。俺も物理には自信がある。どれを抜けば崩れるのか瞬時に計算できる。ここでアピールしなければ他にする機会がない。俺はわざと次に崩れるように抜いた。しかし計倉はブロックを抜きながら他のブロックの角度を調整し、崩れないように抜いた。次に俺は抜いたブロックを不安定な角度で上に乗せた。しかし計倉は上手くかわし涼しい顔でブロックを抜いた。そしてとうとう戦いは30分を超えた。
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