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すでに日が落ちて真っ暗な中、私の足は一歩一歩進んでいく。
歩き慣れた道を歩くように、迷いなく。
「え?」
自分の思考に自分で戸惑う。
わからない。それが酷くもどかしい。
もう少しで掴めそうなのに、掴んだ瞬間さらさらと指の間から逃げていく。
それでも。その中でも、私は進み続ける。
「私、此処に来たことがある」
何時かはわからない。
でも、わかる。身体が覚えている。
道無き森の中を灯りもなく歩けるくらいには。
『此処は2人だけの秘密の場所にしよう』
頭の中で誰かの声が聞こえた。
それに答えるように、ぽかりと空いた空間に出る。
『生涯、貴方だけを愛し続けると誓います』
ずきん。ずきん。ずきん。
頭が割れるように痛い。
立っているのも辛くて、座り込む。
その端で、視界が何かを捉えた。
『…リアへ』
暗闇ではっきりと見える筈がないのに。
それがナニか、私は知っている。
私の名前が書かれた、小さな箱。その中に収められた、銀色のリング。
「リアッ!!!!」
真っ暗な闇の中にカンテラの光が飛び込んできて、目に刺さる。
そのせいでその人が見えない。
だけど、わかる。間違えない。間違える筈がない。
「心配しました。子どもたちに裏庭に向かったと聞いて、怖かった。今度こそ貴方を失ってしまうかもしれないと……ッ!!」
普段からは想像もつかない程の力で抱きしめられ、苦しい。
なのに、その苦しさが嬉しい。
「心配かけてごめんね、ルキヤ」
「リア……貴方、記憶が……?」
「うん、ちょっとづつ……思い出してきてる」
先生は私を『行き倒れている所を拾った』と言っていたけれど、それは私が思っていたよりもずっと昔のことだったんだ。
それこそ、それは私たちがまだ小さかった頃の一番最初の出会いの事で。
私は私が思っていたよりも、ずっとここに居たんだ。
「私……やっぱりずっと此処に居ても良い?」
「えぇ、子どもたちも喜びます」
「ルキヤは?」
「……貴方は狡い」
彼はため息を吐くと、私を離して視線を合わせる。
それで私は気付く。
彼の顔や服は枝や葉に引っ掛けて出来ただろう傷がたくさんある。
いつもかけている眼鏡も何処かで落としたのか、見当たらない。
(それだけ心配してくれたんだ)
じんわりと彼の優しさが身体じゅうに溶けて、幸せに満たされる。
「もう、何処にも行かないで下さい。二度と貴方を失いたくないんです」
それなのに、それ以上に満たしてくれる彼に、ずっと言ってはいけないと想っていた言葉を告げ、最愛の旦那サマの胸に飛び込んだ。
END
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