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「愛してるわ」
「私も」
何度も繰り返されてきた会話。
その言葉に偽りは混じっていないけれど、この感情に幸せな未来は無い。
だって彼女は女で、名家の跡取り娘で、生まれた時から決められた婚約者がいる。
そんな事はもう充分すぎる程分かってた。
“別れ”がある日突然来るかもしれない関係だったから、卒業式という今日が最後というのは私たちにとって、それなりに幸せな結果なのかもしれない。
なんて良いように考えてはみるけれど、一番大きいのはやっぱり痛み。
でもきっと彼女の方がその痛みは強いだろうから、私が「痛い」なんて言えない。
「『伝説』、嘘だね」
「何を今更」
少しおどけて言ってみせたら、彼女に鼻で笑われた。
『学園の一番大きな木の下で愛を誓った2人は永遠に結ばれる』
なんて笑っちゃうような『伝説』を私だって信じてた訳じゃない。
だけどほんの少しだけ希望を持ってたのも事実。
それでも現実は何も変わらない。
彼女は女で、名家の跡取り娘で、婚約者がいる。
「それじゃもう行くわね」
「うん、バイバイ」
“幸せになってね”
その言葉だけ言えずに、遠くなる背中を見送った。
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