I am a liar

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隣に住む12コ違いのお兄ちゃん。 物心ついた時から一緒にいる、世界で一番大切なヒト。 だけど今日で“さよなら”しなくちゃいけない。 「お兄ちゃん」 心を決めて呼ぶと、すぐに振り向いてくれる。 白いタキシードとお揃いの白いネクタイ。 そんなものにちっとも負けない、幸せで溶けそうな笑顔を浮かべるお兄ちゃん。 きっと世界で一番カッコいい新郎さんに違いない。 「来てくれたんだな」 「そんなの、当たり前だよ」 本当はカッコいいお兄ちゃんの隣に立つのは私で居たかった。 だけどそんな奇跡は起きない。 昔はずっとお兄ちゃんのお嫁さんになるのは私だって信じてたけどね。 「お兄ちゃん……」 “オメデトウ” 続くはずだった言葉は喉につぶされてしまった。 昨日までは普通に言えた嘘なのに。 言ってしまったら、お兄ちゃんが遠くへ行くのを認めてしまうみたいで言いたくない。 ちっとも“オメデ”たくないし。 なんて、今更すぎる。 「どーした、舞衣?」 そんな私にお兄ちゃんはいつものように笑いかける。 その優しさが私の胸をぎゅうっとつぶして、涙が1粒あふれた。 「……」 “結婚なんて嫌だよ” 本当に今更すぎる本音が、ぐるぐると私の中で出口を探してる。 だからそれを逃がさないように、きゅっと唇をかみしめてうつむく。 「舞衣」 すぐ上からお兄ちゃんが静かな声で私を呼んだ。 びっくりして顔をあげたら、思ってたよりも近くにあったお兄ちゃんの真剣な顔につかまった。 (この顔、好きだな) しみじみそんな事を思っていたら、お兄ちゃんの顔が近づいてきておデコに唇が触れる。 「泣くなよ、舞衣」 今度視界に入ってきたのは、少し困った笑顔のお兄ちゃん。 その顔が私の記憶を刺激した。 “泣くなよ、舞衣” そして、おデコにキス。 それは小さい頃泣き虫だった私が、泣いてしまう度に繰り返されてきたお兄ちゃんなりの慰め。 昔はそれですぐに涙は止まってくれたのに、今は私の記憶のどの場面にもお兄ちゃんが居て余計に泣けてしまう。 ずっと一緒に居られるって、ずっと思ってた。 お兄ちゃんに一番近いのは私だって、ずっと想ってた。 なのに、お兄ちゃんは違ってた。 「…淋しいよ」 するりと本音がもれた。 お兄ちゃんの顔が困りの色を強くする。 私はお兄ちゃんを困らせてばかりだ。 困らせたい訳じゃないのに。 どうしてうまくいかないんだろう。 「舞衣」 「なんてね、嘘だよ」 お兄ちゃんが口を開いたけど、聞くのが怖くて嘘にした。 だけど私は何故かお兄ちゃんに抱きしめられる。 …もしかしたら、嘘が下手だったのかな。 「…そんな事言うなよ」 悲しそうな声とともに腕に力が込められる。 “貴方が好き”というリズムを打つ心音がお兄ちゃんに解読されないかと、少し心配になった。 「俺は淋しいよ、毎日お前の顔見れなくなるの」 お兄ちゃんの言葉に私の心臓はリズムを高める。 今ここで世界が終わったら、私は最高に幸せかもしれない。 だけど。 「それでも結婚して、隣の家から遠くへ行っちゃうんでしょ」 「……うん」 ほらね。お兄ちゃんはいつもこう。 私に嬉しい言葉をくれるのに、決して私を選んではくれない。 そんなの、わかってたよ。 「はぁ~~~~~」 私は大げさにため息をついてみせる。 お兄ちゃんは私を抱きしめたまま、疑問形で私を呼んだ。 心がちくちくするのは、気付かないフリしておく。 「ホントは私も淋しいけど、お兄ちゃんたちの幸せの為だからって我慢してる妹心を汲み取ってよね」 「舞衣ー!」 お兄ちゃんが半分くらい泣きそうな顔で私を見つめてきたから、今度こそばれないようカンペキな笑顔を作ってみせた。 「…ありがとな」 つられてお兄ちゃんも笑ってくれたから、今度は成功したらしい。 だからもう今しかないと思った。 気を抜いた瞬間、崩れそうになる笑顔を必死に保って最後の言葉を口にする。 「オメデトウお義兄ちゃん、お姉ちゃんの事絶対幸せにしてね」 その言葉は今まで口にしたどんな嘘よりも苦かった。 END
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