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私たちの結婚式から、数か月が経った。
馬車で商談に出かけるユランを屋敷の外まで見送りに出たとある朝、私はふと思い出してユランに尋ねた。
「ねえ、ユラン。そう言えば、あの魔法の鏡はどこで買ったの? あんな偽物を売りつける商人なんて、ロクな人じゃないわよ」
「ああ……あの鏡のことか。あれは魔法の鏡なんかじゃない。ごく普通の壁掛け用の鏡だよ」
「え? どういうこと……?」
ユランは私の顔を見下ろして、イタズラっ子のようにニヤリと笑う。
そしてそのまま馬車に乗り込むと、私に向かって軽く手を振った。
「何? まさか、ユラン!? ……ちょっと待ってよ!」
私の言葉を無視して、馬車はさっさとジークリッドの屋敷を離れていく。
(どういうことなの……?)
あの鏡が、魔法の鏡じゃなかったって?
つまりユランは結婚式の前夜、あえて隣の部屋にいた私に聞こえるように、なんの変哲もない普通の鏡に話しかけていたと言うこと? 「鏡よ鏡」なんて話しかけて、それが魔法の鏡であると私に思い込ませようとして?
「ええっ!? ちょっと待ってよ……!」
一体どこまでが本当で、どこからが彼の小芝居だったんだろう。
わざと壁に穴を開けて私に魔法の鏡のフリをさせ、私の本心を聞き出そうとしたのだろうか。
もしもそうならば、私はまんまと彼の策にハマってしまったことになる。
ユランのことを頼りなくて放っておけない人だと思ったのに、むしろ私の方が彼の手のひらで転がされていただけだった。
(うわぁ……私ったら、馬鹿みたい)
意外と腹黒だった、私の大切な旦那様。
ユランと私の結婚生活は、私が想像していたよりもずっとずっと、波乱万丈なのかもしれない。
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