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後編
――翌朝。
早朝からジークリッド家の侍女たちにたたき起こされた私は、彼女たちに為されるがままウェディングドレスを着せられ、あっという間に髪の毛まで整えられてしまった。
このジークリッド領でしか栽培されていないという鮮やかな赤色の小さな薔薇の花を髪に散らして、美しいレースのヴェールをかぶせられる。
「エレノア様、お綺麗ですよ。こちらは髪飾りと同じ薔薇の花のブーケです」
「うわぁ……! 可愛い!」
侍女から手渡されたブーケの花は、ストロベリーブロンドの私の髪色にとてもよく似合う。
これならもしかして、黒髪のゼルマお姉様よりも私の方がよほど似合っているのではないだろうか。
私はブーケを顔に近付けると、薔薇の優しい香りを思い切り吸い込んだ。花の香りは人を笑顔にさせてくれる。私もいつの間にか笑顔になっていた。笑顔になって……笑顔に……
「……って、ちょっと待ってよ!」
ふと我に返り、私は座っていた椅子から立ち上がる。
あまりの薔薇の可愛らしさに、すっかり忘れるところだった。このままでは、すんなりユランと結婚させられてしまうではないか。
笑顔で和んでいる場合ではない。
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