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明日の結婚式を終えれば、正式に夫婦になる私たち。
隣り同士の部屋をあてがって何かの間違いが起こったところで、大した問題ではないだろう……という、使用人たちの適当な仕事が見て取れた。
私は息を殺して、壁の穴からそっと向こうを覗いてみる。
穴の向こう側には木でできた何かが吊るされていて、この穴が見えないように塞いでいるらしい。ということは、ユランの方は、私に自分の声が聞こえていることには気付いていないのだろう。
(それにしても、私のことを「好いてもいない相手」だなんて酷いわね)
結婚するとは言っても、ユランが私のことを好きじゃないことなんて、とっくの昔に知っている。しかしこうしてはっきりと言葉にされてしまうと、想像以上にショックが大きいものだ。
私たち二人の関係は、少々複雑だ。
今、私がいるこの辺境の地は、元々ユランの兄であるアンゼルム・ジークリッドが治めていた。そのアンゼルムは父親から辺境伯の爵位を継ぐと、年の離れた弟のユランをさっさと養子に出してしまった。
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